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「対北」工作員から「対南」スパイに/ある韓国人スパイの変転流転

小北清人

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 冷戦終結から20年といっても、いまだ冷戦が終わっていないのが朝鮮半島だ。韓国と北朝鮮の熾烈な情報戦は休むことなく続いている。

 この6月、韓国軍の現役陸軍少将が各種の軍事機密を北朝鮮側に流していた容疑(国家保安法違反)で軍当局に逮捕された。漏洩された中には、北朝鮮有事を想定した米韓合同作戦計画「5027」の関連情報も含まれていた。

 が、筆者がそれ以上に驚いたのは、この少将から軍事機密を入手していた人物が、あの「黒金星」だったことだ(国家保安法違反で逮捕)。

 暗号名・黒金星。本名パク・チェソ。1990年代、北朝鮮の権力中枢にまで浸透するのに成功し、重要情報を入手していた特A級の対北工作員だった。その彼が、こんどは北の情報機関のエージェントとして、韓国の軍事情報入手に動き回っていたのである。

 陸軍士官学校出身の軍エリートで、韓国軍の情報司令部に勤務していたパク氏は93年、「同僚から金を借りても返さない、不平不満ばかりの、素行の悪い情報将校」とレッテルを貼られ、軍を退役させられる。それから間もなく、彼は中国を頻繁に行き来し、北朝鮮幹部と知り合う。北の幹部に韓国への不信感をぶちまける一方、一緒にビジネスをしようと持ちかけ、「親北ビジネスマン」として知られるようになる。

 ところが、軍退役の原因となった「素行の悪さ」は、実は、韓国内に張り巡らされた北の「固定スパイ網」の疑いの目を欺くための偽装工作だった。彼は韓国の情報機関のために高度の北朝鮮情報を収集するエージェントとなっていたのだ。

 

 当時、ソ連・東欧圏の社会主義体制崩壊で援助してくれる相手を失った北朝鮮指導部は配下の工作機関に対しても「活動費は自分たちで作れ」と命じた。各機関はさまざまな貿易会社を作り、北京などを中心にカネ集めに奔走した。韓国政府はそこに目を付け、対北浸透作戦を本格化させた。 ・・・ログインして読む
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筆者

小北清人

小北清人(こきた・きよひと) 朝日新聞湘南支局長

朝日新聞入社後、大阪社会部、AERA編集部などを経て現在、朝日新聞湘南支局長。92~93年、韓国に語学留学。97年、韓国統一省傘下の研究機関で客員研究員。朝鮮半島での取材歴多数。

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