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東アジアの構図変化の影で進む米中対立

脇阪紀行

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 米国が、ベトナムやインドネシアを中心に東南アジア諸国連合(ASEAN)に急接近し、地域の16カ国首脳が集まる東アジアサミットへの参加も決めた。東アジアの構図変化の背後に、軍事力を強化する中国に対する米国の警戒感が見える。

 米国とベトナムとの関係強化はその象徴だ。横須賀を母港とする米原子力空母ジョージ・ワシントンが8月上旬、南シナ海を横切ってダナンに入港し、合同訓練を行った。さらに米国は、将来の原発輸出をにらんだ原子力協定の交渉を進めていることも最近明らかになった。一部の米紙は、ウラン濃縮を容認する寛大な内容だと報じている。

 ASEANを軸に日中韓などの首脳が集まる東アジアサミットへの参加も7月末に固まった。米国は10月のサミットにクリントン国務長官を派遣、インドネシアで開かれる来年秋の会合にはオバマ大統領が参加する可能性が強まっている。

 16日発表された米国防総省の年次報告書は、中国の軍事力の強化が東アジアの軍事的均衡を崩しかねないとの危機感をにじませた。とくに、6カ国・地域が領有権を争う南シナ海では近年、中国軍の活動が活発で、2009年3月には米軍調査船が中国の艦船に妨害される事件も起きている。海南島には中国海軍の拠点があり、中国が建造を計画している空母の配備が予定されている。

 7月末、ハノイで開かれたASEANの外相級会議に出席したクリントン米国務長官の記者会見での発言は周囲を驚かせた。南シナ海での船舶航行について長官は、「航行の自由を守り、アジアの海産物を自由に取引し、国際法を尊重することに米国の国益がある」と語ったからだ。「米国の国益」という表現への反発の強さは、中国政府がすぐ「問題を国際化させれば、どんな結果が生まれるのか。解決をより難しくさせるだけだ」との談話を発表したことからもうかがえよう。

 南シナ海での領有権紛争は1990年代からあったもので、古い話ではない。しかし近年中国の勢いに押され気味のベトナムやフィリピンなどは、大声では言わないものの、この国務長官発言を歓迎したに違いない。ただ、中国とコトを構えるのは望まず、米国に一方的に肩入れする姿勢も好まないのが、東南アジアの主流の考えだろう。60年代から70年代にかけてのベトナム戦争から東南アジア各国は、地域を大国間の覇権争いの舞台にさせてはならないという教訓を学んだ。

 ASEANは7月末、米国だけでなく、ロシアの東アジアサミット参加も認めた。米国招請の与える衝撃度を下げるとともに、地域秩序作りの主導権を自らの手に保とうという戦略がそこにうかがえる。

 東アジアサミットへの米ロの参加は、日本の外交戦略にも大きな影響を与えよう。

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