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グチャグチャしながらも「日韓」は進み続ける

小北清人

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 今年はじめ、ソウルで韓国政府関係者と食事したときのことだ。野球のWBCで日本と韓国の4度にわたり激突した話、冬季五輪の真央とヨナの対決の話、日本人と韓国人の酒の飲み方の話、さらには日本で人気の韓国ドラマの話、と話は大いに盛り上がった。北朝鮮がこれからどう出てくるか、についても意見を交わした。

「韓国にとって、日本は、大切な国ですからね」

 と彼がいった。それを受けて筆者も、

「日本にとっても、もちろん韓国は、大事な国です」

 と応じた。日本にとって、東アジアで自由民主主義体制を同じくするのは韓国と台湾だけだ。中国との経済関係は深まるばかりだが、共産党独裁だし、北朝鮮は言及するまでもない。日韓は政治的にも経済的にもさまざまに絡み合い、日々、驚くほど多くの人たちが両国を自由に行き来している。

 韓国人と話していると、相手がどんなことを考えているか、口には出さなくても、なんとなく空気で察する時がある。ほかの外国人との間でそれを感じることはめったにない。それは相手もたぶん同じだろう。

 5月某日、韓国ドラマの舞台裏を取材するためソウルに飛んだ。安保問題に詳しい旧知の韓国人と久しぶりに会い、タクトリタンをつつきながら酒を酌み交わした。

「いやー、韓日関係は確かにいろいろ問題もあるが、それでも中国と比べたらね……。やはり日本のわが国との近さを実感したよ」

 3月下旬に韓国海軍の哨戒艦が爆沈した事件で、韓国政府は官民合同委員会の調査を通じ、「北朝鮮の犯行」との見方を強めていた(5月20日に公式に断定した)。だが中国政府は、いくら韓国側が同調を求めても、北を非難せず、煮え切らない態度に終始した。だが日本政府はすぐに韓国支持を打ち出した。日本と同様、中国との経済関係を強める韓国だが、「やはり中国は違う」と、彼我の差を彼はしみじみ感じたようだった。

 なのに、いったん歴史問題でぶつかると、もう、どうにもならなくなる場面に出くわす。1910~45年に日本が朝鮮半島を植民地支配した時代をどう位置づけるか、という問題だ。

 随分前のことだが、ある韓国人外交官と酒を飲んでいたとき、それまで冷静だった彼が、徐々に不機嫌になり、間もなく、こめかみに青筋をピクピクさせ、眉間に筋を立てて、

 「お前たちはどっちの側なんだ」

 と筆者らに迫ってきたことがある。売り言葉に買い言葉で、こちらもエキサイトし、なごやかな酒の場が一気にトゲトゲしくなったものだ。 

 こんなこともあった。韓国ドラマの取材でソウルを訪れた5月某日深夜、タクシーに乗った。運転手は筆者と同年配の気のいい男で、近づくW杯南アフリカ大会でのグループリーグの組み合わせは韓国に有利か、日本に有利か、などなど、韓国語での話は大いに盛り上がった。

 すると、運転手がいきなり切り出した。

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