川村陶子
2010年08月24日
文化財問題をめぐって、日韓関係が揺れている。
日韓併合100年を機に菅首相が発表した談話で、「日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王朝儀軌(ぎき)等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたいと思います。」という一文が盛り込まれた。韓国政府報道官は「評価する」と論評したが、日韓両国のメディアやネットでは、むしろ否定的な反応が多い。
筆者はむしろ、今回の文化財「引き渡し」措置が、今後の進め方次第では、日韓関係をよりポジティブなものに変えるきっかけになりうると考える。両国における首相談話批判を裏返す形で検討しよう。
批判の文脈は大きく2つある。第一は、文化財の「引き渡し」という行為の内容を問題化する流れだ。韓国側では「引き渡される」文化財の範囲が狭すぎるとし、儀軌だけでなく「すべての文化財」を対象とすべきとの声が挙がっている。韓国政府が首相談話の「お渡し」という表現を「返還」と意訳したことで、「日本が韓国の文化財を略奪した」との被害認識が高まった。一方日本側では、「引き渡し」措置が韓国内の反日感情を高めたことに反発が広がっている。日本と同様に朝鮮王室儀軌を所蔵するフランスが返還を拒否していることを挙げ、「引き渡し」そのものの妥当性を問う動きもみられる。
首相談話批判の第二の文脈は、文化財「引き渡し」と日韓関係運営全般との関連に着目するものだ。韓国側では、日本はこれ以上謝罪や補償を行いたくないため、それを隠すパフォーマンスとして文化財を「返還」するのだという見解がある。対して日本側では、以前韓国がフランスの高速鉄道(TGV)システムを導入した際、フランスがその対価として儀軌返還を検討した事実を引証し、「実利のない」形で文化財を渡してしまう民主党政権の「外交下手」を指摘する論調がみられる。
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