藤原秀人
2010年09月04日
北朝鮮の金正日・朝鮮労働党総書記による「秘密訪中」が8月26日から30日まで、東北地方で繰り広げられた。先の5月訪中の時と同様に、日本をはじめ外国メディアが懸命に金総書記一行の動きを追っかけて、一部メディアは総書記の撮影に成功した。というわけで、今回も総書記の秘密は完全に保たれなかったが、訪中の内実についてはなお不明な点が少なくない。
しかし、秘密が漏れにくい体制を敷く中朝両国の外交の隅々までが明らかになることは、当面はありえないだろう。ここは、中朝関係の基本を振り返ったうえで、今回の訪中の意義、特にメディアがあまり触れなかった中国側の意図や立場について考察したい。
中朝関係を特徴づけるものとしてよく指摘されるのは、(1)安全保障上の最大の懸案は共に米国との関係(2)両国とも社会主義が旗印(3)抗日戦争や朝鮮戦争を通じた友情(4)経済協力である(中朝関係に興味のある方は、世織書房から出た平岩俊司・関西学院大学教授の近著「朝鮮民主主義人民共和国と中華人民共和国――『唇歯の関係』の構造と変容」を参照されたい)。
(2)と(3)は時代を経て意味合いが薄れたのは事実だが、北朝鮮の核やミサイルで中朝関係がぎくしゃくしたときなどに、「社会主義」と「友情」はお互いが切りやすいコストのかからないカードとして使いやすい。今回の訪中でも、中国国営新華社通信によれば、中国の胡錦濤国家主席(共産党総書記)は金総書記に「朝鮮とともに、中朝の友好協力関係の維持と発展に努めていきたい」と表明した。北朝鮮の朝鮮中央通信も、胡金会談について「社会主義の建設と祖国統一をめざす両党、両国人民のたたかいに対する相互の支持と固い連帯が表された」と報じた。
しかし、お題目は大事であるものの、それだけでは双方、とくに北朝鮮には目に見える利益はない。そこで、(4)の経済協力が北朝鮮の関心事となる。「China as Number Two」ともてはやされる中国にとっても得意技である。とはいえ、「自主」を貫きたい北朝鮮にとって外国との密接な関係に基づく中国流の改革開放には、もろ手をあげて歓迎はできない。しかし、改革開放を評価しなければ、支援も得られない。
新華社通信によると、今回の首脳会談で胡主席は「経済の発展は自身の努力だけでなく、海外からの協力も不可欠だ。これは時代の流れであり、国の発展を速めるために必要な道だ」と語り、経済の開放を訴えた。
金総書記が胡主席の呼びかけを真摯に受けとめたどうかは分からないが、北朝鮮が中国からの援助を得るためには、一度は頭を下げなければならないところである。
で、今回の金総書記訪中のハイライトである中朝首脳会談のため、胡主席が吉林省の省都である長春に赴いたのはなぜか。
胡主席の元々の予定に金総書記があわせたという見方がある。しかし、誇り高い中国の最高指導者が首都北京ではなく、地方に赴いて外国首脳に会うのは異例すぎる。
その理由は。
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