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 フロリダ州の小さなキリスト教会の牧師によるコーラン焼却計画にオバマ政権が強い危機感を示したのは、イスラム世界の反米感情が強まることへの懸念からだと受け止める人が多いだろう。しかしこの間の経緯を追うと、米軍が駐留するアフガニスタンの情勢が緊迫し、来年7月に米軍撤退開始というオバマ政権のアフガン戦略そのものが崩壊しかねない、という切迫した危機感が見えてくる。

 世界で最初に抗議行動が報じられたのはアフガニスタンだった。外電によれば、今月6日、首都カブールで宗教学校の学生ら数百人がウルナビ・モスク前に集まり、「米国に死を」と叫んだ。「米国は我々の聖典を冒涜するのを止めるべきだ」。ロイター電はこんな学生の声を伝えている。

 15万人の駐留外国軍を指揮するペトレイアス司令官はすぐ反応した。6日、司令官は、コーラン焼却計画について「部隊を危険にさらすばかりか、アフガンでのすべての取り組みをだめにさせる」との声明を出し、コーラン焼却計画を止めるよう求めた。同じ日、カブールの米国大使館も「米政府はそのような行為を容認していない」とする声明を発表した。

 この出来事が一連の騒ぎの発端となった。インドネシアなどイスラム世界に抗議行動が広がり、世界各地の政治、宗教指導者から計画中止を求める声が上がった。

 米政権中枢も動いた。オバマ大統領、クリントン国務長官らがテリー・ジョーンズ牧師の行動を批判し、ゲーツ国防長官はフロリダの牧師の自宅にまで直接電話をかけて、計画中止を求めた。

 オバマ政権が動いた背景に、緊迫したアフガン情勢があるのはいうまでもない。8月末、戦闘部隊のイラク撤退にやっとこぎつけ、来年7月の米軍撤退をめざして、アフガンでの作戦に全力を集中させつつある。だが戦況は厳しく、05年ごろから反撃に出たイスラム原理主義勢力タリバーンが中南部から北部へとじわじわと影響力を広げているのが実態だ。外国軍の犠牲者数は、米軍の1200人を筆頭に2千人を越えている。

 タリバーンの復活を、衝撃をもって印象づけたのが、8月、アフガン北部クンドゥース州で起きた「石投げの刑」の執行である。

 現地からの報道では、25歳のカヤムという男性と19歳のシディカという女性が双方の家族の許しを得ずに愛し合ってしまった。地元タリバンが招集した宗教法廷はこの2人を密通の罪と断じ、石投げの刑を命じた。タジキスタンとの国境近くのムラクリ村で、家族を含む約200人の村人たちが石を投げつけ、二人は殺されたという。

 タリバーンは内戦終結後の90年代、全土にイスラム法(シャリア)の厳格な解釈に基づいて国民に苛烈な支配を行い、宗教法廷では石投げの刑を行った。クンドゥースでの刑復活はそれ以来のこととなる。タリバーン支配地では8月、密通した41歳の女性へのむち打ちも報告されているという。

 コーラン焼却計画に対して、タリバーンは

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筆者

脇阪紀行

脇阪紀行(わきさか・のりゆき) 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

1954年生まれ。79年に朝日新聞社に入社、松山支局などを経て大阪本社経済部に。90年からバンコクのアジア総局に駐在。米国ワシントンでの研修を経て97年からアジア担当論説委員。2001年からブリュッセル支局長。06年から論説委員(東南アジア、欧州など担当)。2013年8月末に退社、9月から、大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム特任教授。著書に『大欧州の時代――ブリュッセルからの報告」(岩波新書)、『欧州のエネルギーシフト』(岩波新書)。

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