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 緊急事態に直面すると普段は見えない国家の欠陥が浮き彫りになる。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐる一連の動きはその欠陥を白日の下にさらした。19世紀の戦略家クラウゼヴィッツは「戦争は別の手段による外交にほかならない」と述べているように、外交の本質は武力を用いることなく国の能力を結集して戦う真剣勝負である。

 そのためにはまず「守るべき原則」とは何かを見極めなければならない。今回の尖閣をめぐる問題で言えば、日本政府が繰り返しアナウンスしてきた「日中間に領土問題は存在しない」という原則をいかに守るかにあった。この点について日本共産党を含めてすべての政党間に異論は存在しない。だとすれば、主権の行使として中国人船長を逮捕した段階から、事件を超えて国家としてどう対処するかを求められていたのである。菅直人首相をはじめ前原誠司外相も「国内法に基づき粛々と対応する」と繰り返した。この「守るべき原則」が堅持されているなら、司法手続きの過程での中国人船長の突然の釈放はあり得ない選択であった。

 ところが、想定外の中国側の強硬な態度の前にズルズルと退却していく。中国側の狙いが「尖閣の領土問題化」にあることを外務省幹部も指摘してきた。それならば、「領土問題化させない手段、方法は何か」、そのことを政治が考え、決断しなければならなかった。しかし、日本政府は「守るべき原則」と「使うべき戦略・戦術」をきちんと整理しないままに、中国の外交攻勢に翻弄されたというのが実態ではないか。

 今回の問題に限らず、鳩山政権時代に迷走した普天間基地の移設問題でも露呈したように、民主党政権は「外交の継続性」の重要性をあまり認識していないのではないか。日中関係でいえば田中角栄首相による1972年の日中国交正常化以来、脈々と引き継がれていた地下水脈が全く生かされていないのである。仮に日中人脈を総動員していれば、「密使」に民主党の細野豪志前幹事長代理を使うことはなかったはずだ。

 しかも菅首相は細野氏の訪中について「全く承知していない」と記者団のインタビューに答えている。これでは細野氏の「密使」の立場はどうなるのか。北京に到着した細野氏の脇に仙谷由人官房長官と親しいS氏がいた事実を公明党幹部の1人が確認してくれた。中国側が釣魚台迎賓館で細野氏を接遇したことも重ねると、官邸がコミットしたことを強く示唆している。むしろ不安材料は ・・・ログインして読む
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筆者

後藤謙次

後藤謙次(ごとう・けんじ) 後藤謙次(フリーの政治コラムニスト、共同通信客員論説委員)

フリーの政治コラムニスト、共同通信客員論説委員。1973年4月、早稲田大学法学部卒業、共同通信社入社。函館支局、札幌支社などを経て、82年から本社政治部。政治部長、編集局長を歴任。07年10月、共同通信社を退社後、TBS系の「NEWS23」キャスター、「総力報道! THE NEWS」アンカーなどを務める。著書に『小沢一郎 50の謎を解く』(文春新書)、『竹下政権576日』など。現在、週刊「ダイヤモンド」に連載中。

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