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 日本外交が揺らいでいる。普天間問題での外交方針のぶれは鳩山内閣の退陣につながった。菅内閣においても尖閣諸島問題等の外交問題が政権を揺さぶっている。日本外交が右往左往する様子を見せる中、特に日本にとって重要である米国との関係について、「米国において日本が軽視されてきているのではないか?」、「中国の存在が増す中で米国にとっての日本の重要性が薄らいできているのではないか?」といった日米関係の重要性の低下を懸念する声が聞かれるようになっている。これらの設問に対する答えは、Yesであり、Noでもある。

 すなわち、短期的にそのように見える部分があるという意味でYes、長期スパンで見ればそのように傾斜していってしまう危険性があるという意味でYes、根本的な米国にとっての日本の重要性は変わらないという意味ではNo、そういったトレンドは数年程度の短期スパンでは大きく変わらないという意味でもNoである。

 ここでのポイントは二つ。一つは、国家間の関係は長期的に大きなトレンドを描いているということ。もう一つは、とはいえ、短期的な変化の積み重ねは、大きなトレンドに対して長期的に影響を与えていくということ。

 この二点を踏まえると、外交がなすべきことの基本は二つ。常に大局観をもって大きなトレンドをつかみ、その大きなトレンドに沿って舵取りを行うこと。裏を返せば、大きなトレンドに反する変化を短期的に求めないこと、短期的な一発逆転を狙わないこと。二つ目は、中長期的な目標達成に向け、地道かつ着実に努力を重ね成果を挙げていくこと、同時に、目標達成を妨げるような失敗、すなわち失点の積み重ねを防ぐことである。

 日米中の相互関係のトレンドは、短期的な振れはあっても、これまで中長期的には変わらぬトレンドを描いている。民主主義といった共通の価値観を軸とした日米関係、しかも日米安全保障条約を軸とする両国の協力関係の基本は脈々と従来どおり変わっていない。米中が戦略対話を経済だけのものから安保を含むものへ格上げしたりするなど従来よりも接近する一方で、日米で普天間問題が解決に向けてなかなか進展しなくても、米国にとっての日本の安全保障上の戦略的重要性は変わっていないし、すぐに大きく変わることはないだろう。

 確かに、極東の安全保障環境は変化し、それに応じた日米関係の意味づけも変わってきている。中国が経済的に急激に成長し、それに伴い軍事的能力を増強するにしたがって、米国にとっての経済的、軍事的な中国の重要性(それはいい意味でも悪い意味でも)は増すばかりで、それがゆえに、表向きは米国の中国重視、米中接近という形で現れる。しかし、それとて、米中関係が短期的に日中関係に取って代わることを意味するものではない。

 軍事的にひたすら増強を続ける中国は日本にとっての潜在的脅威であり、そのカウンターバランスとして日米安保同盟は必要である。中国の軍事的脅威は、同国が第二列島線(注)まで海軍力を拡張してきたために今日なお増していると考えられるが、台湾有事をも想定し、中国の軍事的脅威に対処するという意味での日米同盟の意義は過去長い間変わっていない。

 日米安全保障関係を軸とし、極東の脅威への備えをしつつ、周辺国との関係改善に努め、自国の安全と経済的発展を図っていく、それが従来の日本外交の基本姿勢であり、日本外交を取り巻く長期的トレンドを踏まえ、大局観をもって外交に臨めば、この基本姿勢は変わらないはずだ。そして、この基本姿勢をぶれずに内外に示しつつ、基本的なことをひとつひとつしっかりと失点なくこなしていく、それが今の日本外交で忘れられつつあり、もっとも重視しなければならないことである。

 例えば、尖閣の問題については、領土問題という性質上、原則的立場を維持し、根気よく交渉を続けていくことが基本である。船舶が衝突した事件の扱いが、ただちに、領土問題の解決をいい方向にも悪い方向にも決定付けるものではない。だからこのような事件に際しては、日本外交の基本方針にぶれがないことをしっかりと示すこと、問題対応で失点しないことが重要である。その意味で、船長の釈放は、直接的な政治的介入があったか、なかったにかかわらず、政治的な介入があったのではないか(そういう意味で従来の日本の外交方針からのぶれがあったのではないか)という印象が内外に対して示されてしまったこと自体がマイナスであった。

 日米関係に目を向ければ、普天間の問題に対する当初の民主党の対応は、「どこに移設するか?」という問題にばかり気を取られて、そもそも重要である「日米相互の信頼関係と協力関係の維持強化」、「地域の安全保障確保」、「沖縄の人々の負担軽減」といった問題を総合的に勘案して根気強く解決に向けて努力していくという基本姿勢が揺らいでいる印象を内外に与えてしまった。

 民主党が「県外・国外移設」を当初唱えていたこと自体が間違っていたとは筆者は考えない。しかし、県外・国外移設を唱えるのであれば、これまでの長期的なトレンドを踏まえ、大局的見地から、今後長期的にどのように周辺からの安全保障上の脅威に対処するのか、日本の自衛力をどのようにしていくのか、従来からの方針転換について米国をどのように説得するのか、そういったことをしっかり考えた上で、その中で、普天間の位置づけを考え、ロードマップを示し、時間をかけて県外・国外移設に根気強く取り組む覚悟が必要だった。

 このように見ると、結局のところ、民主党外交の問題点は、短期的な変化と成果を望んであせっていることではないかと感じられる。外交戦略の舵取りにおいて、大局観を持たず、大きなトレンドを無視し、失敗を重ねたことは、鳩山政権が短命に終わることにつながった。そして、菅政権もまた同じ過ちを繰り返そうとしているように見える。

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筆者

水田愼一

水田愼一(みずた・しんいち) 水田愼一(三菱総合研究所海外事業研究センターシニア政策アナリスト)

三菱総合研究所海外事業研究センターシニア政策アナリスト。東京都生まれ。ニューヨーク大学大学院修士課程修了(国際関係論)。東京大学大学院博士課程修了(博士(国際貢献))。1996年外務省入省後、北米局、在米日本国大使館、欧州局、アジア大洋州局、大臣官房を経て退官、2002年11月より現職。専門は、外交・安全保障、平和構築、国際協力、通商政策、貿易・投資等の分野。

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