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劉氏のノーベル平和賞受賞を中国の民主化の端緒に

土井香苗

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

 ノルウェーのノーベル賞委員会は今月8日、2010年のノーベル平和賞を、「中国における人権のため、長年にわたり非暴力的闘争を行っている功績」があったとして、中国で服役中の作家で人権活動家・劉暁波氏(54)に授与すると発表した。我々ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)も、今月4日、劉暁波氏を含む6人の卓越した人権活動家にHRWの人権賞を授与すると発表したところだった。

 この賞は中国の人権状況を再度国際的な議論の俎上に戻すことになる。そして、中国政府を激怒させることは間違いない。しかし、それ以上に中国政府が内心いやがっているのは、多くの中国国民が劉暁波氏についてインターネットで検索し、劉氏が中心となって起草した08憲章を実際に読むことだ。このノーベル賞は、劉氏の人権と民主主義に向けた断固たる活動を称賛するだけでなく、中国政府が国民にアカウンタビリティある政府となるよう日々闘うすべての中国人たちをも称賛する賞といえる。

 劉氏は、2009年12月25日、北京の裁判所で、懲役11年の実刑判決を宣告された。中国における法の支配と人権尊重を求める「08憲章」を起草するとともに、これを広めたとして「国家転覆煽動罪」で裁かれたのだ。08憲章は、人権、民主主義、そして法の支配を、中国の政治体制の核心にすべきと提言したインターネット上の申立。当初、人権活動家や法律活動家を含む303名の中国人が08憲章に署名したが、その後も、インターネットを通じて広まり、現在は数千名もが署名をしている。劉氏は、2009年6月23日に正式に拘束されたが、それ以前の2008年12月8日から、拘束・隔離され続けている。

 劉氏は今回の逮捕後にこう述べている。「権威主義の政権に対し独立した知識人が立ち上がり、自由への一歩を踏み出すと、それは投獄への一歩となることが多い」それでも、一歩を踏み出したことに後悔はないと劉氏は述べる。「この逮捕によって、今や、自由はより近づいたのだから」

 劉氏の逮捕は政治的動機に基づく。拘禁の条件は公正と適正手続についての最低基準を満たさなかったとHRWは判断している。大学で文学を教えていた劉氏は、1989年6月天安門事件の後拘束され、約2年間を刑務所で過ごした。そして2008年12月にも、中国法により保障されている最低限の手続きにも違反して、同氏は拘禁されたのである。これを受けて、ノーベル賞受賞者たちを含む世界中の著名な有識者たち100名以上が、中国の胡錦濤国家主席に対し、劉氏の解放を求める公開書簡を送付。これには、日本人知識人も署名している。

 劉氏の投獄は、2008年の北京五輪前から中国政府が強化している政治弾圧の一環といえる。以来、中国政府は、根拠のない国家機密関連罪や国家転覆関連罪で、著名な反体制派たちを長期間にわたり投獄。それ以外にも、メディアやインターネットの制約を拡大したり、弁護士や人権活動家、NGOへの統制も強化している。2007年初頭以来、中国政府は、ウイグル民族やチベット民族に対しても統制を強化。恣意的拘禁や強制失踪は、新疆やチベット双方で増加している。そして、「闇監獄」として知られている秘密拘禁施設での違法な市民の拘禁も引き続き行なわれている。

 急速に台頭する中国に対し、多くの国の政府が、中国の暗部に声をあげることに及び腰になっている。日本政府はもちろん、これまで人権を重視してきた米国等の欧米の政府もそうだ。そんな中、ノーベル賞選考委員会は、中国について世界中の多くの人が目をつぶっている現実に光を当てたと言えよう。中国政府が隠したい現実――人権活動家、弁護士、ジャーナリストなどを迫害し続けている現実に。

 劉暁波氏は、長年、普遍的価値を非暴力の手段により主張するとともに権力に真実をもって対峙するという彼の信念から逸脱しなかった。まさに、ノーベル平和賞の理念を具現化している人物である。よって、劉暁波氏は即刻釈放されるべきである。それとともに、胡佳(Hu Jia)氏、高智晟(Gao Zhisheng)氏、譚作人(Tan Zuoren)氏、黄気(Huang Qi)氏など、他にも拘束中あるいは「失踪」させられている活動家も釈放されるべきだ。劉氏は、獄中の知識人として世界で最も有名だが、その他にも、中国政府を批判したため、劉氏と同じような苦しみ――あるいはより厳しい苦しみ――の中にある中国の人びとは数多いことを忘れるべきでない。

 中国政府は、劉暁波氏を政府の敵とするのはもうやめるべきだ。ノーベル賞選考委員会と同様、中国の至高の行動と知識を体現する人物であると認めるべきなのだ。

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筆者

土井香苗

土井香苗(どい・かなえ) 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。1975年生まれ。東大法学部在学中の1996年に司法試験に合格後、4年生の時、NGOピースボートで、アフリカの最貧国エリトリアへ。同国法務省で1年間、法律作りを手伝うボランティア。98年に大学卒業、2000年に司法研修所終了。著書に「“ようこそ”といえる日本へ」(岩波書店 2005年)など。

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