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外圧では進まぬ中国の民主化

藤原秀人

藤原秀人 フリージャーナリスト

 ノルウェーのノーベル賞委員会は、中国政府の警告にもかかわらず、獄中にある民主活動家の劉暁波氏に今年の平和賞を授与することを決めた。北京で長く働いていたにもかかわらず、私は劉氏と直接話をしたことはない。新聞記者失格と言われてもしょうがないが、氏の著書「天安門事件から『08憲章』へ」(藤原書店)を興味深く読んだり、編訳者の劉燕子さんと及川淳子さんから氏の人となりを聞いたりはしていた。だから、劉氏が今年の平和賞の有力候補になっているとの報道には注目していた。

 とはいえ、劉氏が実際に受賞するとは予測していなかった。

 これも記者としてのセンスが問われそうだが、そう思ったのには理由がある。

 1989年にダライ・ラマ14世が平和賞を受賞してからも、中国共産党とその政府に対して民主化や人権重視を求める中国人活動家が毎年のように同賞の候補者として浮かんでいた。しかし、だれも受賞しなかった。

 ノーベル賞委員会は、授賞理由を説明しても、授けない理由は明らかにしない。だから、推測に過ぎないのだが、私は次のように考えていた。

 中国人活動家に賞をあげると、ダライ・ラマ14世の時のように、中国当局が強く反発する。平和賞を選考するノルウェーのノーベル賞委員会は政府から独立した存在、とノルウェー側は何度も強調してきたが、委員会のメンバーは政治家であり、中国は納得しない。反発はノーベル賞委員会とノルウェー政府に向けられるだけでなく、中国国内での民主化を求める活動に対する締め付けの強化をもたらしかねない。ダライ・ラマ14世やミャンマー(ビルマ)のアウン・サン・スーチー氏が平和賞を受けたが、国際的な関心は集めても、問題はいっこうに解決しない。ならば、慎重に対処しよう。中国の国力が増強の一途のなか、「大国」と敵対するのはいかがなものか――。

 今は、ノーベル賞委員会を見くびっていたことを反省するしかない。委員会の勇気と胆力に敬意を表したい。

 で、劉氏の受賞により、中国の民主化は進むのか。この点について私はなお悲観的だ。

 もちろん、劉氏への授賞が本人だけでなく、中国の民主化を求める活動家への励ましにはなるにちがいない。授賞が決まったあと、毛沢東主席の元秘書をはじめとする引退幹部らは、憲法の定める「言論の自由」などが政府や党によって否定されているとして、その自由化を求める公開書簡をインターネット上に発表した。この動きも授賞に励まされたものだろう。

 だが、党と政府はよりかたくなになり、活動への締め付けは強まると思う。私たちが「08憲章」を読めば、自由、人権、平等など普遍的価値を主張しているだけで、驚くことはないだろう。しかし、党からすれば「民主憲政の枠組みのもとに中華連邦共和国を樹立する」ことは絶対に許されないのだ。

 中国史は王朝の興亡史ともいえる。漢族の王朝・明が滅亡し、満人の王朝・清が中原で覇を唱え、その清に対して漢族の革命運動が各地で起こり、1911年の辛亥革命を契機として翌年に中華民国が成立した。しかしその後、国民党は共産党との内戦に敗れて、共産党による中華人民共和国が1949年に発足した。

 中華人民共和国は選挙など平和的な方法で生まれたのではなく、中国共産党が力でつくったものだ。「中華連邦共和国の樹立」は共産党への真っ向からの挑戦になるのだ。

 しかし、 ・・・ログインして読む
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筆者

藤原秀人

藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト

1980年、朝日新聞社入社。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。

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