藤原秀人
2010年10月21日
政権は銃口から生まれるが、党が鉄砲を指揮するのであり、鉄砲が党を指揮することは絶対に認めない。
故毛沢東主席が中国共産党と中国人民解放軍の関係をこう明確に位置づけたように、人民解放軍の最高指導機関である党中央軍事委員会の影響力は極めて大きい。
国家主席にも、首相にもならなかった実力者の故鄧小平氏でさえ、中央軍事委主席の座にはこだわった。
そんな中央軍事委の副主席に、党内序列6位の習近平国家副主席の就任が決まった。
審議のやりとりが公開されない党の第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で選出された。誰が賛成し、反対したのは誰か、棄権した委員はいたのか。我々の関心事は明らかにされない「秘密会」での決定である。
しかし、習氏が軍事委のメンバーになるかどうかが、胡錦濤国家主席の跡を継げるカギと見る向きが多かった。
というのは、胡主席は国家副主席に就任した翌1999年9月の第15期4中全会で軍事委副主席に就き、江沢民前国家主席の後継者としての地位を固め、3年後の2002年党大会でトップの総書記になったからだ。
習氏も順調にいけば、2012年の党大会で党総書記に、13年の全国人民代表大会で国家主席にそれぞれ昇進することになろう。
で、軍で肩書を得た習氏は、本当に軍内に影響力を持てるのだろうか。江沢民前主席や胡主席も軍歴がないまま、他のメンバーはすべて軍人という中央軍事委に入ったため、指導力が長く疑問視された。
習氏は江、胡両氏よりは若干のアドバンテージがあるようだ。
習氏は胡氏も学んだ清華大学で化学工学を学んだ後、中央軍事委の事務局に席を置いた。野戦軍を率い、副首相や党政治局員を務めた故習仲勲氏の長男であったことが有利にはたらいたのかどうかは定かではないが、それなりの扱いを受けたとみられる。
習氏はその後、四半世紀を地方で勤務することになる。軍を直接に指揮することはなかったが、地方の幹部として基地に行って軍人と一緒に映画を見るなど付き合いはまめだったという。また、台湾を担当する南京軍区の国防動員委員会副主任をつとめた。
妻の彭麗媛さんが人民解放軍総政治部に所属する歌手であることも、軍から歓迎される一因である。彭さんの階級は少将で、人民解放軍総政治部歌舞団団長をつとめる。テレビ出演も多く、中国で最も人気のある歌手の一人といえる。習氏が中央政治の舞台に出るまでは、彼女の方がずっと有名だった。
だから、習氏は江、胡両氏より軍に影響力を行使できる、との見方が出ている。
では、世界が警戒する中国の軍拡は、習氏の中央軍事委入りでどうなるのか。
共産主義の威光が薄れた中国で、国民をたばねているのは経済成長と愛国心だ。経済成長の成果は国民に均等には行き渡らないので、多くの人々が不満を募らせている。となると、愛国心はさらに重要になってくる。
中国では警察は腐敗の代名詞となっており、評判がすこぶる悪い。それに対して、軍は清潔なイメージがあり、大国になるためには軍事費の増加は当然だ、という意識が愛国心旺盛な国民に根強い。
5中全会で採択されたコミュニケによれば、
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