メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

若年・高学歴層が離れ白人層が反発、大企業も野党支持

春名幹男

春名幹男 早稲田大学客員教授(米政治安保、インテリジェンス)

 米国は「大声民主主義」である。より大きな声で主張を訴えることができた方が勝つ。そのためには頻度の高いTVコマーシャル放映に必要な巨額の選挙資金を集めなければならない。

 米中間選挙で台風の目になった保守派「ティーパーティー」(茶会)のエネルギーを利用する野党共和党は、下院では過半数を奪還する勢い。上院でも民主党を苦しめている。

 2008年大統領選挙でオバマ氏が「変革」の主張とともに旋風を巻き起こし、黒人初の大統領に就任してからわずか約1年10カ月。リベラルの風から、突然の右旋回の原因と事情を突き止める必要がある。

 第一に、オバマ大統領を勝たせた大統領選は異例だったことを指摘しておく必要がある。全体の得票率はオバマ氏53%対マケイン上院議員46%だったが、白人だけの比較だと43%対55%でオバマ氏が負けていた。だが、その劣勢を黒人(95%対4%)、ヒスパニック(66%対32%)などマイノリティの圧倒的支持ではね返した。またインテリ層(大学院卒、54%対44%)、若年層(18~29歳、66%対32%)がオバマ氏を後押しした。

 だが同時に、白人貧困層が多いとみられる高卒以下の層は40%対58%で強力な反オバマブロックを形成した。この層が今回重要な働きをしているとみられる。

 第二は、オバマ氏は「ワンフレーズ」の主張で支持を広げたが、実際はレーガン氏ら「ポピュリスト」の政治家ではなく、知性派で「超現実主義」とも言える政治家だという点だ。

 政治的課題を達成するためには大幅な妥協もする。「社会主義」との批判を浴びながらも、ゼネラル・モーターズ社(GM)や保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を事実上国有化、未曾有の財政赤字を積み上げた。さらに長年の課題である医療保険改革も成し遂げた。

 対テロ戦争では、米中央情報局(CIA)に対して、米国人のテロ容疑者を暗殺してもよいとする許可を出し、人権団体の厳しい批判を浴びた。こうした「妥協」が若年・インテリ層の支持離れを招いたとみてよい。

 他方、失業率が9・6%前後で高止まりしており、白人貧困層などが反発を強めている。

 オバマ大統領は、「百年ぶり」とも言われた金融危機で矢継ぎ早に公的資金を投入、それによって、大恐慌を防いだ功績を英エコノミスト誌などでも高く評価されている。しかしそんな評価は選挙戦では語られない。今や、景気対策は手詰まりで、明るい材料はない。

 その上、銀行の高リスク取引を制限する「ボルカー・ルール」をはじめとして、金融、石油、化学工業などに対する規制が強化された。これに反発する大企業が米国商業会議所などを通じて巨額の政治資金を提供している。ニューヨーク・タイムズ紙によると、プルデンシャル社、ダウケミカル社、ゴールドマン・サックス社、シェブロン・テキサコ社などが大口の拠出をしている。総額は不明だが、与党民主党候補者を批判し、野党共和党を支持するTVコマーシャルなどに使われている。

 民主党は「秘密資金」が流入と批判しているが、

・・・ログインして読む
(残り:約272文字/本文:約1534文字)