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ODAがエチオピアの弾圧を助長している

土井香苗

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

 痛ましい程やせ細ったアフリカの男の子。父親の腕に抱かれている。父子ともにお腹をすかせているのだ。ふたりが住むアフリカ・エチオピア南部は、毎年、食糧不足に襲われる。村民たちには食糧配給がある。が、その父親(仮にジョゼフと呼ぼう)は配給を受けられない。理由は、彼は野党の党員だから、だ。

 ジョゼフは、今年10月におこなわれた総選挙及び2005年の総選挙(不正があったとして大規模な抗議行動が起きた)で、与党エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)の対立候補である野党候補者を応援し、地元で隠れることなく選挙運動を行った。

 ジョゼフが野党を応援したことの代償は大きかった。そして、家族がその代償を払わされた。妻は末っ子を連れてジョゼフのもとを去った。「妻は空腹に疲れたのさ」と彼は言う。ジョゼフの手元に残された長男は8歳。緊急給食プログラムの対象年齢を超えているため、緊急支援も受けられない。栄養失調でやせ細った長男は、せいぜい5歳児くらいにしか見えない。

 野党関係者である以上、誰もジョゼフを雇ってはくれない。ジョゼフが耕すことを許されている土地も、村長(与党・エチオピア人民革命民主戦線の村の委員長も兼任)の命令で減らされてしまった。さらに「フード・フォー・ワーク(労働の対価としての食糧援助)」プログラムへの参加も拒まれた。ジョゼフは、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員ベン・ローレンスにこう語った。「昨日、村長から『こんなにたくさんの仕打ちにあいながら、なんでまだ懺悔の書類を書いて党に入らないんだ?』と言われたよ」

 エチオピアのメレス・ゼナウィ首相は、貧困削減を約束し、国連ミレミアム開発目標(MDGs)の達成に向けエチオピアを躍進させた改革者として、世界的な名声を得ている。エチオピアの統計の正確性については多少論争があるのだが、それはひとまず置こう。米国・英国・EU・日本などの先進国の政府開発援助(ODA)や世界銀行(日本は米国に次ぐ第2位の拠出国)などの国際機関の資金が、毎年30億米ドル(約2500億円)以上もエチオピアに渡っている。こうした国際資金は、エチオピア政府の中央財政及び地方財政に流入しているのだ。

 エチオピアでは、経済援助プログラムのモニタリングのほとんどが、エチオピア政府との共同事業とされている。大規模で投入資金も巨額な経済援助ではあるが、エチオピア政府は独立した監視を制限しているのだ。その結果、ODA供与国及び援助機関は、多くの場合、エチオピア当局が協定に基づき援助を活用していると信頼することにしているのが実態だ。

 エチオピア政府は、アフリカ諸国で有数の中央集権的管理国家の一つだ。そして、最も弾圧的な政府の一つでもある。与党が政権の座に着いてから19年の間に、「政府=(イコール)与党・エチオピア人民革命民主戦線」の構造が確立されてきた。

 2005年の総選挙の不正を巡り、与党・エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)が厳しい批判にさらされた。このとき、エチオピア政府はその弾圧的一面をあらわにした。デモ参加者200名以上を殺害、およそ3万人の野党支持者を逮捕し、野党指導者やメディアの主要人物を反逆罪で訴追したのだ。

 ODA供与国や国際機関はこれに愕然とした。先進国の援助資金が、与党だけを潤し、社会の分断を助長する可能性――つまり開発援助関係者の言葉でいう援助の「政治的占有(political capture)」――を恐れて、西側諸国はエチオピア政府への直接財政援助を停止。しかしその停止は一時的なものに終わり、2004年から2008年の間で援助総額は倍増、33億米ドルにまで上ったのである。

 しかしODA供与国や国際機関が2005年に恐れたことが現実となっている。エチオピアは、自由にものを言えない国として悪名高くなった。人口の85%が居住している農村部では、5世帯ごとに班が組織され、その班長がすべての家族の動向を村の指導者たちに報告することとなっている。来訪者、会話、政治的立場はすべて監視され、記録され、工作物の種・肥料、マイクロクレジットの割り当て、セーフティ・ネットとしての「フード・フォー・ワーク」プログラムへの加入が決められる際には、その報告が評価される。村の役人たちは、学生の推薦・身元保証や、教師や公務員の就職・昇進の推薦・身元保証も担当している。

 つまりジョゼフのように一線を越えてしまったら、社会的に排除されるばかりではなく、全てを奪われることになる。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは2009年、エチオピアの3つの地方全域の50を超える村で200名以上の人びとから聞き取り調査を行い、その調査をもとに、今年10月、報告書「自由なき開発:海外援助がエチオピアの弾圧を助長している実態」(全105ページ)を発表した。我々が調査を行った村の多くで、ジョゼフのような状況が進行していた。

 世界銀行をはじめとする援助国・援助機関は、開発プログラムがとても多くの人びとを助け、援助国プログラムに対する政治介入を監視するメカニズムも存在する、と公には発表している。しかし ・・・ログインして読む
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筆者

土井香苗

土井香苗(どい・かなえ) 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。1975年生まれ。東大法学部在学中の1996年に司法試験に合格後、4年生の時、NGOピースボートで、アフリカの最貧国エリトリアへ。同国法務省で1年間、法律作りを手伝うボランティア。98年に大学卒業、2000年に司法研修所終了。著書に「“ようこそ”といえる日本へ」(岩波書店 2005年)など。

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