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軍政継続のための選挙、その実態は

土井香苗

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

 ※ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今回の選挙に関する詳しい一問一答(Q&A)を用意しました。ぜひごらんください。http://www.hrw.org/ja/news/2010/11/03/2010#_Toc276904624

 ビルマで、2010年11月7日、20年ぶりに総選挙が行われた。

 この総選挙について、ビルマの漸進的な民主化プロセスへのてこ入れになり、市民社会のための空間を作るきかっけとなるとする見解もある。だが、今回の総選挙は、ビルマ軍事政権が、民政の「顔」をした軍政支配の継続にむけて、長年かけて慎重に作り上げてきた選挙プロセスの一環として捉える必要がある。

 ビルマ軍政が提示する「規律ある民主主義への行程表」の歩みなるものは、人権侵害で埋め尽くされている。例えば、2007年の非暴力デモの参加者に対する武力弾圧、この時を境に倍増し2千人以上となったビルマの政治囚、国境地帯の少数民族はさらに周辺に追いやられている。諸権利を蔑ろにして軍政支配の継続を保証する2008年憲法や、主要な反軍政系政党の立候補を巧妙に妨害する選挙法の存在。ビルマでは、結社、集会、表現の自由は長年制約されており、その上に、こうした政治弾圧が行われている。ビルマのマスメディアは当局の厳しい統制下にあり、選挙に関する報道は、政府発表や党首へのインタビュー以上のものにはならないし、軍政を批判する見解を述べることは許されていない。

 アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝した1990年に行われた総選挙を完全に無視して行われた今回の選挙。残念ながら、11月7日のビルマ総選挙は民主化にむけた前進ではない。終わりのない軍政支配の継続のためのものだ。

 11月7日の総選挙は、恐怖と脅迫、諦めといった雰囲気の中で行われた。登録を申請した47政党のうち、37政党が軍政の連邦選挙委員会の承認を受けた。その多くは小規模な民族政党で、今回議席が争われる3種類の議会に 少数の候補を擁立するに留まる。なお3議会とは、全国レベルの国民議会と民族議会のほか、14の州・管区に設置される議会を指す。

 2008年憲法の下では、これら3つの議会すべてで現役軍人が相当数の議席を占めることになる。争われる議席のほぼすべてに候補を擁立できたのは2政党だけだ。一つは軍政が支援する連邦団結発展党(USDP)、もう一つは親軍政政党で、旧ビルマ社会主義計画党を引き継ぐ国民統一党(NUP)だ。

 選挙での大勝が予想されるUSDPは、テイン・セイン首相ほか現役閣僚(全員が4月に国軍を退役した国軍幹部)によって結成された。同党はほぼ全国と地域のほぼすべての選挙区(1158議席程度)に候補者を送り込むことになる。

 2010年始め、USDPは、連邦団結発展協会(USDA、1993年に軍政が結成。その指揮下にある全国組織)から、金融資産、広範な組織基盤、 会員名簿の大半(約1800万人分)を継承した。USDAとその民兵組織部門は野党勢力への襲撃に長年関与しており、ここ数年は、選挙に備えて地域開発事業を自分たちの業績だと主張している。地域社会と小政党からは、USDP党員(多くの場合、現地の治安部隊とつながっている)による脅迫や勧誘の増加が報告されている。

 USDPは、わずかに存在する軍から独立した小規模な野党政党を排除する「巨獣」のような存在の政党だ。脅迫と小さな買収とを積み上げることで、USDPはビルマ全土に浸透し、民政の皮を被った軍政支配の恒久化を目指しているといえよう。

 反軍政勢力系の数少ない政党が、軍政系の2大政党に反対する連合を組んでいる。例えば

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