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中国の「核心利益」への対応は難しい

藤原秀人

藤原秀人 フリージャーナリスト

 「島の問題は主権の問題であり、国民感情にかかわるものでもある。すぐに状況を変えるような行動を起こすことがあってはいけない」。今なお中国政府のジャパンスクールの総帥ともいえる唐家璇・前国務委員(副首相級、センは王へんに旋)が4日、日本経団連を訪ねて米倉弘昌会長らにそう語った。島の問題とはいうまでもなく尖閣諸島の問題だ。

 その翌日、尖閣諸島近海で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した際のビデオ画像がインターネット上に流出したことが明らかになった。漁船が意図的にぶつかったことをうかがわせる画像の流出が、唐氏の恐れた「状況を変えるような行動」になるのかどうかは定かではないが、胡錦濤国家主席が今週末のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する環境づくりのため、修復に向け動き出した日中関係に影響を与えるとの報道が続いた。

 しかし、私はそうは思わなかった。事件直後の流出ならば衝撃はあっただろうが、約2カ月が過ぎて、中国当局だけでなく中国国民も事件へのスタンスが確固としたものになっていたからだ。

 中国側が今回の漁船衝突事件で問題にしていたのは、「中国の領土である釣魚島(尖閣諸島)」の沖で起きた事件が、日本の国内法で処理されることだった。極論すれば、どちらがぶつかってきたかは関係なく、「中国領内で日本の巡視船が活動し、中国船の船長を逮捕した」ことが問題なのだ。事件直後に反日デモが起き、ネット世論もやけどしそうなくらい熱くなったが、中国人が主権や領土というと過剰な反応を示すのは、いまに始まったことではない。

 それと、中国の指導者が昨年来、領土問題を「核心利益」という言葉を使ってこれまで以上に重視し続けていることへの注視が日本側に足りなかったと思う。

 去年の7月、ワシントンで開かれた米中戦略・経済対話の際、今回の尖閣事件への対応で中国側の責任者と見られる戴秉国・国務委員は「中米関係が前向きの発展を確保するために極めて重要なことは、相手方を尊重し支持すること、そして自らの『核心利益』を維持することである」と述べた。そのうえで、戴氏は核心利益について「第一に国家の基本制度と安全保障を維持することであり、第二に主権と領土の一体性を維持することである」などと指摘した。

 さらに、トップの胡主席も今年5月に北京で米中戦略・経済対話があった時、「重要なことは相手方の『核心利益』を尊重し、一連の敏感な問題を妥当に処理することだ」と話した。

 中国側がなぜ「核心利益」の保護を米国側に求めているのか。明確なことは言えないが、軍事力を含めた国力の強化につとめる中国は、世界中にプレゼンスを誇る米国と衝突することを懸念しているのは間違いない。だから、中国との安定した関係を望むならば、米国も中国に対して緊張を高めることはして欲しくない、というのが一つの理由だろう。

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筆者

藤原秀人

藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト

1980年、朝日新聞社入社。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。

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