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【AAN第11回朝日アジアフェロー・フォーラム】ライズ・オブ・チャイナ(Rise of China):今そこにあるものを深く理解する

WEBRONZA編集部×AAN(朝日新聞アジアネットワーク)提携

■(1)「G2時代」の虚と実

国分良成・慶応大法学部長

「大国」中国抜きに国際関係は語れない

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【司会(藤原帰一・東大教授)】 朝日アジアフェロー・フォーラムは、今回で11回目になります。何をしようかということで、世話人で議論したんですが、いろいろな企画を横に押しやるように国分先生がひとこと、中国をやったら人が集まるよ。それは分かっているんだけど、とおっしゃるんですね。もちろん多くの方に集まっていただきたいので「ライズ・オブ・チャイナ」という企画にいたしましたところ、今回このようにそうそうたる皆様に集まっていただくことができました。誠にうれしいことです。同時に、東南アジア屋としては嫉妬にたえないという気持ちも抱えております。

 申し上げるまでもありませんが、国際関係を議論するときに、中国という言葉を抜きで話をすることはもうほとんどできません。経済の話、例えば国際金融危機はどうなるのかという話をするときも、中国がどのようにかかわるのかということが中心となって議論されます。国際政治、特に軍事問題を議論するときでも、急成長する軍事大国から地域紛争への具体的な関与に至るまで、中国が常に中心になります。

 まさにライズ・オブ・チャイナになるわけです.そこで問題になるのは、このライズ・オブ・チャイナがかつての大国日本という議論のような、言ってみれば一過性の話題で終わるのか、それとも第2の大国としての中国を含む国際関係というものがこれから作られていくのか、そこでしょう。

 この話題を話していただくために適任の方々がきょうの参加者にも多数おいでなのですけれども、アジアフェロー・フォーラムも折り返し地点に来ておりますので、ここはやはり世話人から発言をするのが筋でしょう。そこで、本日は国分良成先生と王敏先生にお話をいただきたいと思います。政治と、社会・文化の両面からライズ・オブ・チャイナについて考えていこうという企画です。

 恐縮ですが、お話はおよそ20分間ということで、時間はできる限り厳守していただきたいと思います。トップバッターとして国分良成先生、もうご紹介するまでもないと思いますが、中国研究、中国政治研究の日本の代表的な研究者であるとともに、慶應大学の法学部長、日本国際政治学会の元理事長として実務家としてもらつ腕を奮っていらっしゃいます。

「まず、中国報道に注文します」

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【国分良成・慶応大法学部長】 それでは、今日、20分ということなので、問題提起で終わると思いますが、既にお配りしたレジュメのような順番でお話ししますが、時間はとても足りないだろうと思います。

>>資料(PDF)はこちらからダウンロードできます

 たまたま今日の朝日新聞の一面トップはこんなことになっておりますけれども、(4月2日の朝日新聞一面PDFはこちら) 何で今さらこんな記事が出るのかなというのが正直なところであります。ちょっときついことを最初から朝日に申し上げて恐縮でありますけれども、もともと胡錦濤が春か夏に訪米するのはわかっていたはずですよね。

 4月(核保安サミット)か6月(カナダでのG8、G20)、あるいは両方行くかというのは大体想像がついていたわけで、それを前提にチベットのダライ・ラマとの会見や台湾への武器供与などの話は早めに進んでいたというのは、ほぼわかっていましたね。4月の核のサミットに出ないということは、中国はオバマ大統領を傷つけることになる。しかも、それに不参加だとノーを言うことになり、中国の立場そのものに相当が傷つくことになるとわかっていたわけですから、これを一応想定していろいろな問題が前倒しで処理されてきたということだと思います。アメリカは中間選挙があって、オバマ政権の支持率が下がっているのですから、議会からの対中政策批判を回避するためにも、対中強硬はある程度必要でした。それを「中国がしたたか」というのはどうでしょうか。外交はしたたかなものですし、アメリカはしたたかじゃないんですかということになる。まず、苦言というよりも問題提起として申し上げておきたいなという感じがいたしました。

 というのは、ちょっと最近、記事を見ていて気になることが多いのです。グーグルの問題にせよ何にせよ、トヨタの問題にせよ、ちょっと違うんじゃないかという感じがしておりました。自分の中国研究の感覚がちょっと鈍ってきたのではないかと不安になって、私は3月初めの全人代のころに、3日間だけ時間をとりまして、大使館にも行かず、要人にも会わず、研究機関も訪れず、街の表と裏をずっと3日間歩き続けて、そこで情報を集めてみようと思ったのです。皮膚感覚、街の感覚というフィールドワークですね。

 普通のおじさんやおばさん、食堂のオーナーとか、タクシー運転手とか、そうした人たちと話していると、報道で作り上げられたものと実態が全然違う。外で見ていると、中国台頭とG2とか、こんな話になってきちゃっているわけですけれども、現場で何が起こっているかというと、相当に下からの社会の圧力がすごいことがわかります。

 その圧力というのは、政府や生活に対する不満ばかりしか出てこないということです。この状態というのはいったい何なのかと思います。

 私は天安門事件の直前の1988年まで上海にいましたが、状況が違うといえば違うのですが、似ていると言えば似ているようにも思えます。違うのは、学生が動いてないという点です。学生は全く体制化していますから、学生と話していてもあまりおもしろくはありません。

 それから、知識人たちもその多くは体制化しています。彼らも既得権益層の中にある程度組み込まれている人たちが多い。われわれは通常よく中国の知識人に会いますが、そうした人たちの感覚はひょっとして一般社会とはすでに少し違うのではないか、そんな疑問をもって北京の街を自分の足で歩いてきました。

 社会の圧力、それを天安門事件前だとは言いませんけれども、それにもちろん趙紫陽も現指導部にはいないのですが、少し似ている感覚があるのではないかと思います。いずれにしても、社会の雰囲気があまりよくないということです。

 ただ、今すぐに何かが起こるという感じでもない。起こりようがないんです。それは、監視カメラがいたるところに設置され、そのときはいわゆる全人代ですから、警察官がほとんど100メートルもない間隔で立っていました。これは逆にいえば、本当に安定しているのだろうかということであります。

 また、ヨーロッパも最近行っていないので見てこようと思って、この間、伊豆見さん(伊豆見元・静岡県立大教授)とご一緒しましたけれども、フランスでの国際会議に参加しました。それにまた、今週の日曜日からアメリカに行って、今度はハーバード大学で「ライズ・オブ・チャイナ」という全く同じテーマの大討論会があるので、日本人がだれもいないというので、参加してこようと思います。

 そんなこと言ってるうちに5分過ぎちゃいました。

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 レジュメに戻りましょう。G2の時代というのはどうして出てきたのか。これは言葉としては、例えば「フォーリン・アフェアーズ」あたりがさかんに取り上げてました。フレッド・バーグステンも「フォーリン・アフェアーズ」で言い出したし、それからもちろんそれ以外にもブレジンスキーなどのそれに乗ったという感じだったし、キッシンジャーも若干そうした傾向がありました。そうした言葉がひとり歩きを始めるというのは、今の世界はキャッチーの時代ですからよくあることで、それ自体が現実にあるかどうかという問題ではなくて、それが動き出すと逆にそれが現実になっていくところもある。

 これが国際政治のまさにコンストラクティヴィズム(Constructivism/構成主義)という議論です。今の国際政治学や歴史学は、物事の理解は人の記憶や伝承などを通じて構成されていくという視点にたつコンストラクティビズムは、現在の学会の主流ともいえる流れです。

 ということで、アメリカの世界戦略家がそういうことを言い出したので、これが動き出したのですが、両国の首脳はいずれもこれを否定したわけです。オバマ大統領は、これはあり得ない話ということで否定しましたし、中国も、温家宝さんがこんなことはあり得ない、中国はまだまだ早いと言いました。そしてこれは、アメリカが中国を意図的に釣り上げて、中国脅威論をつくるための陰謀であると、こういう言い方をして一蹴しました。

 でも、もちろんこう言われるのは中国の人たちにとっても、ほんとうはうれしいでしょうと聞くと、本音はやはりうれしいようです。それは当然のことです。しかし、現実が伴っていないというのも彼らはわかっているわけです。

「中身伴わぬG2論」の中で本質を考えるためには

 G7、G8からG20へ、そしてそれが今度は一挙にG2に行っちゃったという、何だか話がどんどん先に進んでしまうというだけで、中身は伴っていない。言葉はひとり歩きはするでしょうけれども、それを議論していって意味があるのかないのかというのはもちろんあるわけですけれども、ただ動き出している以上、中国の本質は一体何かということを考えなくちゃいけないですね。

 日本の中では大体これをもって非常にペシミズムの議論が登場しています。「これで米中に牛耳られて、日本はまたバッシングされてだめになる」というのと、「だから日本はだめなんだ」といって日本をたたこうとする人たちとか、「いや、これはまだまだ米中は、そうじゃなくて大衝突が起こるかもしれない、台湾問題に注目だ」という人たちと、そんなような分かれ方をしているんですけれども、実はそんな極端じゃないと私は思っているわけであります。

 確かにGDP論争でいきますと、日本が本来抜かれると予想されていたのは2020年代で、しかも2000年のときは日中のGDPが4対1だったわけですから、10年間で一挙に並ばれたということですね。

 日本のGDPは世界の中で最高18%を占めたと思うんですが、今や8%まで落っこちました。中国も現在約8%。これは、いかに日本がこの20年間だめだったかというその象徴でもあるわけです。中国がすごいのか、日本が相当ひどかったのかという、これは両面性があるわけですね。ただ、ドイツなんかも倍近くまで伸びてきたというのがあります。

 そういう点でいくと、やっぱり日本の問題というのは、きちんと対処されてこなかったという面が1つあるということは、日本自身の反省として考えなくちゃいけない。

日本はなぜ「G2」になれなかったのか

 そこで、2つ目には、今日はいろいろなおもしろい方も来られています。畠山さん(畠山襄・国際経済交流財団会長、元通算省審議官)もおられるので、少し挑発的に、日本は何でG2になれ切れなかったのかという問題を提起してみたいと思います。実は来週、ハーバードでこの辺を報告するのでいまスピーチ原稿を書いているのです。日本が西ドイツを抜いて世界第2位になったのが68年ですから、そこから40年間以上にわたって日本は世界第2位を築いてきているわけであります。

 1964年に東京オリンピックがあって、先進国首脳会議が始まったのが、G5・G6、これが1975年ですね。このときの隠された意図の1つは、日本を国際社会の中に引き入れていくという、いわゆる三極委員会なんかもそうですけれども、日本が国際社会の中にきちんとメンバーシップをとるという意味で、この75年あたりは考えられていたということだろうと思います。

 このような中で、ただ、この間、世界と日本は石油ショックを受けて、そしてその以前から日本はアメリカとの間で経済摩擦が起こったものですから、円高圧力が来ていたのです。日本は少しずつ円を切り上げていくわけですけれども、結局のところ、71年に経済面のニクソン・ショックがあって、変動相場制に移行したわけです。

 その変動相場制になったのですが、日本は依然としてまだ介入を繰り返しながら円を守っていきました。エズラ・ヴォーゲル先生の「Japan as Number One」が出たのが1979年です。これはもちろん日本の方式を一部アメリカも見習えるかもしれないという趣旨です。

 で、私がアメリカにいたのがちょうど80年代の初めですから、この経済摩擦が非常にひどかったときですね。このときは今でもよく覚えていますが、ただし日本がとにかくソ連に変わる悪の脅威になるとか、いろいろなことを言われていたんですけれども、心の中では大きくなった日本にどこかうれしさが潜んでいた。

 ですから、今の中国の人たちの気持ちはよくわかる。「ようやく日本もここまで来たか」という感覚はありました。脅威論と言われても、絶対脅威にならないのはわかっていますし、それだけのものがあるのかと思っていましたから。しかし、「何かうれしい」という、そういう感覚で一生懸命、「いや日本はそんなんじゃないですよ」と反論をしていたというのが、私がアメリカにいた時代の2年間だったなというのが今思い出されるわけでありまして、そうすると、中国の人たちの気持ちもよくわかるなと。

 85年にプラザ合意がありました。日本の中では「バブルがどうして生まれたのか」というと、「実はプラザ合意が生んだんだ」という議論がたくさんあります。その辺は畠山さんにお聞きしたいんですけれども、もちろん相関性はあるわけですね。その後、「内需拡大しなくちゃいけない」となったわけですから。そして、1年間で1ドル240円だったのが120円になっちゃいました。つまり、半分になりました。それによって企業は外に出ざるを得ないという形になっていったということですよね。90年代初頭、バブルが崩壊して、日本はその後苦労してようやく浮かび上がりかけたと思ったら、今度はアジア通貨危機で再び奈落の底に落ちました。

日本のプロセスを徹底学習する中国

 実は中国は、こうした日本のプロセスを勉強しています。実はかなり多くの専門家が内部学習をやっているんですね。ですから、もうこの話をするとわっと飛びついてきます。「日本のバブルはどうして生まれた」、「アメリカの圧力はけしからんよな」と、こう言ってくるわけですね。「アメリカの圧力によって日本はやられたんだ」と見ている人が多い。

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 でも、そういっても、変動相場制も人民元切り上げもないのに、「中国はもうバブルが来ているじゃないか」と。「人民元を切り上げてないのに、どうしてもうバブルが来ているんだ」と。「これで切り上げたらどういうことになるんだ」という話ですよね。内需拡大だという話で言われてこういうことになって、「中国は一体大丈夫か」という話で、「外に出るだけの力を持っているのか」ということです。だから、「アメリカの陰謀によって日本は陥れられた」という議論が中国の中に根強くあって、「アメリカの圧力では絶対に人民元切り上げはやらない」と言っているわけですね。でも、「アメリカの圧力ではやらない」と言っているんです。よく聞いたほうがいいですね。だから、やらなきゃいけないのもわかってきているんです。その辺、大論争が内部にあるということを最近発見したというか、中国人の人たちがこの議論に食いついてくるということがよくわかった。

 ですから、「日本の二の舞になるのかどうか」という話なんですけれども、ここのところはもう少し丁寧にそれこそ畠山さんにお聞きしたいんです。実は、日本はもっと前に少しずつ切り上げをすべきだったという議論があるわけです。そうすれば、バブルはもう少し回避できたかもしれない。つまり、あまりに我慢して、結局、アメリカの圧力で、アメリカの決定で日本が切り上げざるをえなくなったという部分がないのかということです。だから、もう少し早目にじりじりとちゃんとやっておけば、あんなことにはならなかったのではないかという議論があるようです。

 と考えていくと、中国はもうすでに遅いかもしれない。バブルがこんなに起こってしまって。

 最近、中国の若者と話をすると、家の話しかしない。これをやったら2時間でも3時間でもやっているわけです。彼らにとっては深刻です。結婚しても住む場所がないのですから。

 われわれの昔のあの不動産バブルの時代と同じ状況が中国で起こっているのに、しかし彼らはそこのところはまだ完全に実感できていないわけです。だって、東京の地価よりも北京のほうが高くなっちゃっているところが結構あるのですから。

 ということで、こんな話をしているうちにもう大分時間が来たので、中国の実態はどうなんだということに移りたいと思います。

体制が壊れる可能性はほとんどみられない

 現状で見る限り、中国の政治体制が壊れる可能性はほとんど見られない。なぜかと言えば、第1に今の中国は改革開放30年に自信を持っている。第2に現在のような金融危機のなかで、共産党独裁下の市場経済が実質的に有効に機能している。第3に国際社会特にアメリカが中国の体制転換を望んでいない。MAD(注:Mutual Assured Destruction)というか相互確証破壊のようなもので、中国が米国の国債を持っていること自体で、お互いそれを相手を強制する手段として使えないという状況が起こっている。

 ただ、そうした希望的あるいは状況的な要因よりも、やっぱり一番大きいことは、「党」、「軍」、「ビジネス」の癒着と腐敗です。

 この点で重要なのは、国有企業の資産公開。これについては、先日、中国の経済官僚と話す機会があり、ちょっとお話をしたときに、「まあ2年間は無理でしょう」とのことでした。その意味は、もうポスト胡錦濤時代に入りつつあり、権力交代もあって難しくなっているということです。

 資産公開、そして税制です。簡単にできないでしょう。既得権益層が固めている中で、もともとできる問題じゃない。そこで環境税だとか資源税だとか、つまり痛くないところから取って、あとは私営企業と外国系企業から取るという形でやらざるを得ないという話ですよね。ですから、個人所得税とか累進課税の具体化はできないし、それから相続税もできないという話です。

「資産公開」「税制」改革できるか 議論は表面化し始めた

 そうすると、普通の国家としての体をきちんとなすのかという話が、やっぱり中国内部の国家官僚の間でも真剣にあるわけですよね。ただ良い点は、そうした議論がもう表面にでてきたということです。

 中国の問題は、システムの未整備と機能不全です。「中国は何で8%成長をめざすのか」といったら、それは簡単な話で、8%と言えば、下のほうでは勝手に9%、10%やっちゃいますから。上の政策が下では勝手し放題になってしまうのが、中国ではよくある現実ですね。

 体制に巣食った汚職・腐敗は、今回3日間北京の街で聞いて歩いただけでも、もう聞きあきたというぐらい、とてつもなく多すぎる話です。もうそれは無限に存在する話ですね。しかも、市民たちはみんな知っているわけですね。それは、少し聞いただけでも、ちょっと想像を絶するような話が幾らでもあるという世界だと思います。

メディア沸騰

 という中で、「この状況ではいかん」という感覚が広がっている。官僚の中にもそうした人たちが拡大している。その中で今一番おもしろいのが中国のメディアです。メディアがどういう状態になっているか、おそらく中国の方はわかっていると思いますけれども、いまやおもしろくてしようがないですね。おもしろい記事が多くなっています。もう社会の中は、ぐつぐつと不満ばかりが渦巻いてきている。ここでもしグーグルを中国政府が許すようなことがあったら、ぱんとはじけてしまうのではないか、というのが私の率直な感想です。

 グーグル問題についての一般的な報道を見ていると、「中国は上から抑えてけしからん、けしからん」というばかりの内容なんだけれども、「何で抑えなきゃいけないか」というところが、「中国がこんな現実になっているじゃないか」とか、「今、実は中国国内の報道がこんな変化している」いうのは出てこない。

 例えば、ここへもゲストとして来た兪可平さん。(注:<兪可平>中国共産党中央編訳局副局長、著書「中国は民主主義に向かう」(かもがわ出版)、09年10月16日開催第9回朝日アジアフェロー・フォーラム「中国の民主主義」で講演)。

>>第9回朝日アジアフェロー・フォーラムはこちらです

立場を変えた兪可平さん 「党を法で抑えないといけない」

 これは実は香港のネットにあるものですが、彼最近立場を変えました。ここに来たときは、あんなに慎重で、「民主主義はよいが時間をかけて」みたいに、いわば権威主義的主張を展開していた彼が、ここに書いてあるとおりですが、何を言い出したかというと、「法に依拠して党をおさめる」と言い出したんですね。「党を法で抑えないとだめだ」と彼がついに言い出した。「民主主義はいいものだ」としか言っていなかった彼が、ついに変えました。変えないとまずい、ということですよ。まずいというのは、メディアがそういう報道をどんどんするようになってきた。つまり社会が変わってきた。

>>兪可平さんの資料(PDF)はこちらからダウンロードできます

 おもしろいのは、ここにちょっと書いてあるように、つまり、中国の現体制は、上からの「剛性安定」という、締めつけ安定が現実であって、実質的に警察国家と変わりないという議論です。そうした議論までネットでは出はじめています。

私の批評をそのまま紹介した雑誌が全人代会場に置かれた

 私の『南風窓』誌の記事のコピーも配布させていただきました。

>>国分さんの資料(PDF)はこちらからダウンロードできます

 これは一度上からの圧力でつぶれかけた雑誌ですよね。あまりにやり過ぎて、『財経』とともに危なかった。これはNHKの特集で数年前に取り上げられていました。この雑誌が今回の全人代のすべての会場に置いてあったそうなんですね。私が取材を受けたのも載っているんですけれども、中国語がわかる方だったらわかるでしょうが、話したことが全部そのまま出ちゃっているわけですね。

 中国が文化大革命時代のような閉鎖的にならずに、現在のような国際化された状況を日本は望んでいたのであって、その意味で日本の対中政策はODAも含めて成功した、それをアメリカは全面サポートしてきたのであり、その点で日米安保条約は中国にとってマイナスとなったことがなかった、中国が少し自信をつけたからと民族主義的主張を行うのは危険であり、中国に必要なのは改革と開放の継続であり、しかしそれを拒むのは既得権益層だ、米中関係が悪いのは国内政治を配慮した一時的なものであり、現状で対決はできない、などの議論が出ています。

 鳩山外交についても、私の議論が紹介されていまして、「日米安保条約を緩める必要が今の状況でどうしてあるのか」、「日本の国益にとって、米国との関係を緊張させることに意味があるのか」。東アジア共同体についても、なぜ中国は慎重なのかについて、「中国はアメリカとの関係を崩したくないからこの議論に消極的なのだ」といった話が出ています。外国人が話す議論は、基本的になんでも紹介できるということでしょう。

 さらに紹介すると、「日米安保がいかに中国の国際化に貢献したか」、「日米安保があって今の中国があるんじゃないか」、「日米安保を使い、中国を敵視して、中国が国際社会に入ることをそんなに阻止したことがあるか」、「台湾問題で武力的な行動をとったときに、日米安保は抑制効果があって、それ以後中国は穏当な対応となった」というような話が書いてあるんですね。これらが全部そのまま出ています。中国は民生部門をきちんとやらないと、ソ連の二の舞になることも記されています。

 こうした私の議論は確かに注目されたようです。それにしても、全人代でみんながこれを見ていて、こんな議論があるのかということだったようです。

 グーグル問題はそうですが、トヨタ問題も、実は途中で中国の態度が突然変わったんです。最初、トヨタ問題について中国は甘かったんですね。何度もアメリカでお詫びをしているのを報道して、「かわいそうだ」とみんなが言い出したわけです。「トヨタは頑張っている会社じゃないか、アメリカこそけしからん」という議論もあったそうですが、そこが突然変わった。何で変わったのかを調査してみました。

 で、面白いことがわかったんですね。それは何かというと、クレーマー、クレーマーが山のように来たということです。インターネット上で、「トヨタのおかげでおれの息子は交通事故を起こした」とか、「アメリカばかりに謝って中国に来ないのはけしからん」、そういうのがざっと来て、デモまであったのを上から抑えつけたということです。結局、そうした社会からの大きな声に応じざるをえなくなった。つまり、ここにあるのは社会の圧力。「2ちゃんねるを中国政府も見過ぎている」という感じもちょっとあり、どこかの政府と同じですが。

「民生を気にせざるをえない」部分が報道されていない

 軍事費削減がどうして従来の17%前後から7%に落っこちたのか。これは、別にアメリカや日本の批判はあまり考えてないと思うんです。それじゃなくて民生です。ネットでは「民生をどうにかしろ」とあふれています。その背後には、やっぱり「軍事費をどれぐらい使っているんだ」というのが結構出ていますよね。そういう社会の圧力みたいなものがあり、今年、医療費と薬品価格を4分の1に下げるという議論を始めたようです。何でそういう見方が我々の報道の中からできてこないのかなというのが、私は社会をきちんと見ていないからではないかと思うのです。つまり、ひとつひとつ起こった現象を自分の視点からだけで見ていると、全体像を見失うのです。

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 いずれにしても、ポスト胡錦濤時代に向けて権力闘争の激しい時代に入りますから、今や街の人たちが一番おもしろいですよ。「江沢民、最近、出てこなくなったから大丈夫かな」とか、そういうことをみんなが横目でウオッチしているという部分のところが非常におもしろいという感じがしますね。

 ただ、今のままではどうにもならないということで、今後政府はどこから着手するか。結局、経済成長が最優先ですから、財政補てんするしかないという話になるんですね。これが続くと思います。というよりは、政治的には上から抑えつけざるを得ない。やっぱり剛性体制にならざるを得ない。そしてアメリカとの関係は、結局崩せないわけですよね。

 ただし、これに対してフラストレーションを持っている人間が幾らでも中国に出てきているということです。これは官僚を含めて、「アメリカの言いなりになるな」という話に結構なっています。しかも、「アメリカの言いなりになったらまずいことになるかもしれない」という人たちも相当に増えてきたのも事実。しかし、おそらく戦略的には、そんなに好きではないが、アメリカとけんかするのは得策ではないという話になるわけです。これはアメリカでも同じでしょう。

 米中関係の根幹は台湾問題です。近年は大陸から数キロの軍事要塞島の金門島に台湾から行けるようになりましたが、実は大陸のアモイからも直接行けるようになったのです。金門島には軍人もほとんどいません。私も行ってきました。台湾からじゃなくて、アモイから行ける、そういう時代が来ちゃっているわけですよね。

 ですから、米中関係というのは、台湾問題ではすでにおかしくない。ただし、「今のところ」はないということです。とはいえ、陳水扁さんのようなああいう極端な政策をとるのは今後難しい。アメリカは現在の中台の交流を評価しているわけで、今後とも台湾はあまり極端なことはできない。つまり、独立は難しいし、それに統一も簡単ではないということです。

 そんなことでもう時間が来てしまいましたが……。最後に少しだけ下さい。

発展の現実は「実」であり、システムと社会の基礎はまだ「虚」

 ということで、「中国は結局のところ張り子のトラか」と言われたら、「張り子のトラでもない」と思います。それはなぜかというと、「もう現実がある」ということです。広がった経済の発展、1人当たりGDP1万ドルを超えてしまった、こういう現実が中国の沿海地帯に広がったということです。人口も含め日本の4倍か5倍でしょうか。そして、世界中に散らばった優秀な学生、優秀な人材。こういうのはもう体制が変わろうが何だろうが変わらないんだということで、これは「実」だろうと思います。ただし、システムと基礎部分は、そういう点でいくと、「虚」の部分が相当に多いので、だんだんメッキが外れていくことになるんじゃないかという感じがします。その間、とにかくどうやって経済成長を継続させていくかということなんです。

「G8、G9」として訓練を積んだらいかがでしょう

 最後の結論。もう一度中国にG8、G9に入ってもらったらいいんじゃないか。つまり、中国がG2に一挙に飛ばないで、やっぱりG7、G8の訓練を積んでからやらないとまずいんじゃないかという感じですね。ですから、日米安保の意味も含めてですけれども、きちんと中国が国際社会の中に枠に入る工夫をこれからさらに進めなければならない。この点で最も重要なのは、日本もアメリカも以前のような力がない中で、やはり中国自身の自助努力です。その意味で中国は決定的な段階に今入りつつあるんじゃないか、そんな感じがするということを申し上げて終わります。

 以上です。(拍手)

国分さんのフィールドワーク手法(藤原さん)

【司会(藤原帰一・東大教授)】 国分先生、ありがとうございました。これからライズするチャイナではなく、既にライズした、つまり大国となった中国が抱えている問題についてお話をしていただきました。国分さんは私の長年の友人でして、尊敬しているところもたくさんあるんですが、ひとつ挙げるとすると、中国の普通のおじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんのところに行ってすっと話を始めることができる。日本人で、国分さんほどこれを自然にできる人に会ったことがありません。

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 ご一緒に中国に行ったことがあるんですが、同行した方が中国民衆に会いたいとおっしゃるんですね。民衆に会いたいなんてこれは大仰なと私は思ったんですが、国分さんはさらりと、「いいよ」、とおっしゃって、すぐに民家に入っていって、「日本から来た偉い人なんだけれども、君の家を見たいと言うんだけど」と持ちかける。相手も、「あ、はい、いいですよ、うれしいな」とすんなり受け入れて、国分さんを先頭に民家にずかずかずかとわれわれが入っちゃった。「民衆」に会いたがっていた先生が一番たじろいでいたくらいです。

 その間、国分さん、ずっとおしゃべりをしているんです。国分さんが中国のおじさん、おばさんとおしゃべりをしている過程、これが国分さんのフィールドワークなんだと腑に落ちました。中国の社会の温度というんでしょうか、それをつかまえる点で国分さんほどすぐれた人はいません。今日のお話にもそれが現れていたと思います。

 続きまして、今度は王敏さん。文化をテーマに日中関係を追いかけてこられたので、政治とはまた違った角度からのお話をちょうだいできると思います。よろしくお願いします。

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