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領土保全と海保の限界―海上保安庁は国交省の外局でいいのか

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 連日中国漁船衝突事件をめぐる報道がメディアを賑わせている。だが筆者には、問題の本質に対する報道や議論があまりにも少ない気がする。

 筆者にとっては、今月末に発売の月刊誌の連載でも書いているのだが、件の中国漁船が本当に「漁船」だった否か、ということが一番大きな問題である。今週発売の週刊文春も取り上げているが、この漁船が中国当局の意を受けた工作船であるとの疑いがある。

 つまり単なる漁船の領海侵犯ではなく、国家による領有権の侵害、あるいは侵略の可能性がある。その件に関して捜査がなされていない。大手メディアの関係者は、直接話すとそのような可能性を口にするのだが、記事にはならない。不思議な話だ。

 むろん当局には、それが分かっていた上で、高度な政治判断によって単なる漁船の領海侵犯ということでケリをつけたのではないか、という見方もあろう。だが、政府の対応をみている限りでは、そのような深慮遠謀があったとは思えない。

 実際に島嶼をめぐる領土紛争で一番起こりうるシナリオは、当局の意を受けた民間人、あるいは偽装退役した軍人などによる、「自称民間人」による侵略工作である。この手の工作は、それがいかにミエミエであっても国際社会に対するエクスキューズとして機能する。成功すればめっけもので、失敗しても国家は関知していないとシラを切り通せる。それ対して、国家の意思として軍隊を動かして軍事行動を起こせば、本格的な戦争にエスカレートする可能性もあるし、国際的に孤立する可能性もあるので、成功しても失うものも多い。

 このようなタイプの侵略に対して我が国が十全の対策をとっているとは言えない。

 保守系の識者は自衛隊の増強を主張するが、それだけでは抑止にならない。たとえRPG-7や軽機関銃で武装した集団が離島に上陸して領有権を主張しても、相手が「民間の有志」を自称している限り、単なる「密入国者」あるいは「不良外国人」として扱わなければならない。

 県警レベルでは、このようなこのような重武装集団に対処はできない。特に相手が身分を隠した特殊部隊であれば、なおさらだ。対応が遅れれば、相手国は「自国民の保護」を理由に警察部隊を派遣し、竹島同様に実質支配を目論むだろう。この場合、自衛隊を動かすためのハードルは極めて高い。政府は自衛隊に防衛出動あるいは治安出動を発令する必要があるが、「民間人」相手に「軍隊」を出して鎮圧することになる。

 相手国は「日本軍が我が国民に銃口を向けた」と宣伝し、自国の軍を派遣する口実に使用するだろう。となれば本格的なホット・ウォーにエスカレーションする可能性は少なくない。日本政府に、そのようなリスクをふまえて決断を下せる度胸は無いだろう。当然、相手国もそのように考えるだろう。つまり離島に何個連隊自衛隊を駐留させようが、このようなシナリオでは役に立たない。

 本来このような事件に関しては国家警察や国境警備隊が対処にあたるが、我が国の国境警備隊である海上保安庁が活動できるのは海上のみであり、オカでは活動する権限も能力もない。また ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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