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「暴力装置」がおびやかす文民統制

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 前回「暴力装置」という言葉は別に自衛隊を揶揄するものではないことを書いた(11月19日付「『暴力装置』は『差別用語』か?」)。

 こんな幼稚な議論を国会で論じるべきことではない。

 政治が軍隊や警察などの「暴力装置」の使用を誤る、あるいは悪用すれば、多くの人が死傷し、権利、自由、財産が失われる。また「暴力装置」自体が暴走した場合も同様である。

 つまり「鉄人28号」や「ジャイアントロボ」みたいなものであるから、リモコンを持つ人間はそのリモコンを慎重に扱う必要があるし、「鉄人28」や「ジャイントロボ」自体が暴走する可能性も考慮する必要がある。

 政治家が警察も自衛隊も職務に忠実だ、彼らを「暴力」の「装置」と呼ぶのはしからん、「実力装置」なら納得してやる、というのであれば、その人物は政治家を辞めるべきだ。向いていない。組織論を情緒論や浪花節にすりかえるのは政治家の所業ではない。

 完璧な人間などいない。人間の作った組織も同様である。個々の隊員や警官の職務に対する忠誠心や人間性を信じる、信じないとは別な次元の話である。

 例えばの話、護衛艦の艦長が違法操業をしている中国漁船に「天誅を加える!」と発砲し、撃沈したらどうなるだろうか。砲術科の人間は個人的にどう思おうと、艦長の命令には従うだろう。艦長も乗員もまじめな人間で、私心もない。義憤に駆られて射撃をしたのだから問題ないと許すのだろうか。つまり、警察にしても自衛隊にしても、まじめでも私心がなくても誤った行動を起こす可能性はある。今回の海保のビデオ流出事件しかりである。

 また人間は弱い生き物で、自分に与えられた力が大きければ、それを使って、他者に影響を与えたくなる誘惑に誘われる場合もある。われわれ有権者が選んだ選良は私心なく国家のために働くと信じたいが、その「国会議員ですら」自己の権力を使って裏口入学を斡旋したり、業者にカネをもらって役人に圧力をかけたり、調査費をちょろまかして私的な買い物をしたりしているではないか。

 警察と自衛隊だけは間違いを犯さないという確証があるのだろうか。確証も論証もないないものを信じるのは宗教である。それを信じるならば政治家ではなく坊主になるべきだ。

 我が国の「暴力装置」、特に警察の管理には大きな欠陥がある。政治は言葉尻をあげつらうよりも本質を論じるべきだ。我が国で国家の暴力装置とされるのは自衛隊、警察、海上保安庁である。ところが海上保安庁を除いて、以下に述べるように、事実上、警察官僚が支配をしている。政治がこれを統制できていない。これは民主国家として極めて異常だ。

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 警察は平気で法律違反を行う。現実問題として自分たちを制御する人間がいないからだ。だから拘置所という代用監獄が悪用され、冤罪が多発する。裏金を告発した内部の人間はパージされる。

 公務員法では公務執行中の警察官は質されれば官姓名を名乗らなければならない。それが守られないので、近年では制服警官はIDナンバーが書かれたバッジを身につけ、私服警官にしても同様にID付きのバッジと対になった身分証明書を提示することになった。ところが私服警察官はIDの提示を要求してもパッと一瞬見せるだけですぐに隠すことが少なくない。このような違法行為と遵法意識の欠如がいまだ放置されている。

 そもそも組織自体に問題がある。我が国には国家警察がない。警察庁は実働組織を持たず、現業部門の警察としては地方警察である都道府県警のみしか存在しない。だが、都道府県警の警視正以上の幹部職員は警察庁に属する国家公務員であり、それ以下の警官はその自治体に所属する地方公務員である。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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