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若者の社会貢献ブーム 社会はすぐそこから始まっている

川村陶子

川村陶子 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

 社会的企業(起業)がブームである。昨年4月にはビジネス誌『ダイヤモンド』が、「あなたにもできる世直しビジネス」と銘打って、社会起業家特集を組んだ。「社会を変え、人びとを笑顔にすること」にこだわる人が、とくに若い世代で増えているという。起業のみならず、ボランティアなどの社会貢献活動(社会活動)に関心を持つ若い人も増えている。文部科学省はこうした傾向を後押しするため、学生の社会貢献活動をサポートする大学に補助金を上乗せする優遇措置を設けることを決めた。

 筆者は、社会的企業(起業)、社会貢献活動のいずれにも積極的な立場である。とくに若い人たちがそれに関わることには、大いに賛同する。しかしその一方で、社会的企業や社会貢献活動の「社会」が、しばしばかなり限定的な意味で使われていることに違和感を覚える。「社会貢献意識」の強い学生たちと接する中で感じるのは、「彼ら・彼女らが何よりも求めていることは、人と人とのつながりである」ということだ。

 筆者の勤務する大学では、社会活動支援奨学金という制度を数年前に導入した。国際協力や地域活動、環境活動などを行う学生たちに、大学が奨学金の形で資金提供しようというものである。学内の認知度はまだ浅いが、毎年いくつかのグループが応募している。中心になっているのは、フェアトレードや途上国支援といった国際協力系の活動を行う学生たちだ。

 学生たちは、大学から奨学金を受けて、それぞれ目的とする国際協力活動を実施し、一定の成果を挙げている。だがこれらの奨学生たちは、途上国の生産者や子どもたちの支援と同時に、あるいはひょっとしたらそれ以上に、「学校の中での人のつながり」の促進に貢献し、そこから達成感を得ている。

 フェアトレード活動の学生たちは、自分たちが賛同する公正貿易の観念を普及するにはどうしたらよいか考えた結果、学内で教職員を対象とするフェアトレードコーヒーの試飲会を行うことにした。さまざまな学部の教員や学内各所の職員、同じ学園内で大学に隣接する小学校の教職員が集まり、ふだんゆっくり接する機会のない人たちが、学生が注いだコーヒーを飲みながらおしゃべりに花を咲かせた。とくに事務職員の間では「学生さんがこのような活動をしていることを初めて知った」と反響が大きく、ご家族の経営するレストランでフェアトレード商品を紹介して下さった方もいた。さらに、試飲会を知った校長先生の協力で、学生グループが小学校の授業でチョコレートと児童労働に関する開発教育を行うこともできた。「小学校と大学生のコラボ」は他の学生グループにも広まり、現在は小学生が履けなくなった子ども靴を学生が回収してカンボジアに送る活動が恒例化している。

 学生たちの国際協力活動は、手作りのささやかなものである。効果や効率の面で、問題がないとはいえない。しかし、小さな活動をきっかけに、同じキャンパスの中で立場や年代の異なる人たちがつながり、大学・学園というコミュニティの一体感を高め、学習や仕事の場を生き生きとさせることができたのは確かである。

 大学側では、当初「学内で行う活動を“社会活動”とみなし、奨学金を出すのはいかがなものか」という意見もあった。だが、振り返ってみれば、大学や学園という「身近な社会」へのかかわりこそ、学生はもちろん教職員にも、もっとも必要なことであったように思われる。学生は就職活動やアルバイト、教職員は目前のノルマ達成に追われて、大学本来の目的である人間形成を支える、日々のコミュニケーションがおろそかになっている。そのような中、学生たちは

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