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文民統制の根幹を知らない日本の政治家

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 仙谷官房長官の「自衛隊は暴力装置」発言以来、「暴力装置」は国会では「実力集団」と言い換えられている。その後も、この発言に関して文民統制に関する議論が国会で行われている。だが政治家の多くは文民統制の本質を理解していないように思える。

 我が国の文民統制はその根幹に関わる大きな問題を抱えているが、彼らには、その自覚がない。戦前の軍部が統帥権干犯を口実にしたことからも分かるように、文民統制の要諦は、政治が人事と予算を掌握していることである。だが我が国では政治がこの予算を掌握していない。

 以前、11月5日付「スーパー堤防と10式戦車の相似性」でも説明したが、通常、軍の装備調達においてはまず、どの装備を調達するかということを決める。それと同時にその装備をいくつ、何年で調達し、総額いくらかかるかも決める。

 自衛隊の各幕僚監部はそれぞれ数量や調達期間に関する見積もりを出す。だが、これらは国会の承認を受けない、言わば身内の見積もりに過ぎない。国会では何を買うかだけを決め、翌年の調達だけは決定するが、総調達数も調達総額も調達期間も国会では審議されない。つまり実質的に国会が計画を承認しないまま、なし崩し的に毎年の調達が行われている。

 装備調達は民間企業でいえば設備投資だ。役員会が投資総額も調達期間も決めずに、設備投資をすることはあり得ない。国の事業でもそうだ。東京~大阪間にリニアモーターを通すとして、いつ完成するかもわからず、総予算もわからないのに国交省が独断で予算をつけて、今年はここまで線路を引きましょう、と予算を要求しても通らない。ところが防衛省の予算では国会を通ってしまうのだ。

 例えば陸自が採用した国産偵察ヘリ、OH-1は調達コストが高すぎるとしてわずか34機で調達が中止された。当初の調達予定機数は約250機、その後、大綱の変更などで約130機に減らされたが、その4分の1で調達が打ち切られたことになる。

 調達単価は約25億円で、開発費に約1千億円かかり、調達途中で追加して支払われることになった初度費(装備品の製造設備などの費用)は約300億円。これらの諸経費をすべて足すと、実質的な調達単価は約60億円に達する。他国の偵察ヘリは6~7億円程度であるから、値段は約10倍だ。軽自動車にフェラーリの値段を払うようなものである。

 開発の段階では、実用化に際してどの程度の機数をどの程度の期間で調達し、総予算はいくらになるか、という基本情報が提示されていない。にもかかわらず国会は開発予算を承認した。

 量産化についても、同様の「事業計画」が提出されないまま国会は調達を承認した。そして、開発開始から10年後の今年、突如として調達は打ち切られた。しかも、この打ち切りは国会で問題にもならなかった。杜撰な開発及び調達を行った防衛省でも陸自でも、誰も責任を取ってはいない。

 つまり、調達が可能かどうかも議論がされないまま、開発予算が付き、生産が決定され、挙げ句の果てに調達が中止されたのである。政府も国会も、防衛省・自衛隊も誰もこの不始末に責任を負っていない。恐らく今後も同様な失敗が繰り返されるだろう。

 本年度の予算で建造された22DDH(ヘリコプター護衛艦)も問題だ。これは ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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