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韓国はアジアのシンクタンク大国だ

鈴木崇弘

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 先日、洪日杓さん(韓国の進歩的新聞社ハンギョレの設立したハンギョレ経済研究所の首席研究員)に、韓国のシンクタンクについての話を聞いた。その話に基づき、韓国のシンクタンクの現状について概観し、シンクタンクについて考えてみたい(文責はすべて筆者にある)。

 韓国は現在、数多くの政策課題に直面している。韓国は官僚中心の国であるが、これら多くの課題を、行政機関(官僚)がすべて解決できるとは考えていない。韓国では一般に、民主化運動は「民衆運動」と「市民運動」の二つからなるとされる。そのうち、市民運動は、活動家、大学教授、弁護士などの専門家を中心にして、韓国の社会を変革し、問題を解決する上で大きな力を発揮してきたし、いまも発揮している。他方、その市民運動は、金大中や盧武鉉の政権を経て、専門家が政府に直接参加することなどにより、逆に政策力が低下してきていると内外から批判されてもいる。また、民衆運動の側でも、新たなる活動家が十分に生まれていない。このように、外部専門家と活動家の双方に問題があり、政策能力の低下が生まれている。このような状況において、韓国のシンクタンクの問題を考える必要がある。

 現在の韓国には、大きく言って、4つのタイプのシンクタンクが存在する。

 まず、政府のシンクタンクである国策研究所。以前は、各省庁ごとにシンクタンクがあったが、特に韓国のIMF経済危機以降、その非効率性や縦割り体制が批判され、現在、国務総理室傘下の複数の研究会のもとで運営されている。

 現在の国策研究所は、開発独裁時代の韓国開発研究院(KDI)のような独自性はないものの、経済分野だけで23の研究所があり、年間予算総額は500億円、4千人の研究者(うち、1400人は博士号取得者)である。このように、国策研究所は、豊富な予算と人材などの資源を有しているが、独立性は低い。なお、ソウル市や釜山など大都市圏にも研究院が存在する(それら自治体には15のシンクタンクがあり、年間100億円が使われている)。

 次が、企業のシンクタンクである。全国経済人連合会付設の韓国経済研究院をはじめ、大宇、サムスン(三星)、現代、LGなどが経済研究所を有している。それらの研究所は、個々の企業の経営コンサルティングや独自の調査、マクロ経済動向や経済・社会の環境変化の分析、企業経営や市場の活性化のための政策提言を行っている。

 このうち、特にサムスン経済研究所(SERI=http://www.serijapan.org/)は、他の研究所以上に、積極的に政策全般について政策提言をおこなっており、韓国一のシンクタンクともいわれている。100人以上の修士・博士号取得者を雇用し、年間営業利益は数百億ウォンである。盧武鉉政権の「国民所得2万ドル論」「東北アジアの金融ハブ論」「産業研究団地の造成法案」などの主要政策は、大統領に提出された同研究所の報告書の内容がもとになっていると、社会的にも広く知られている。同研究所と政府の間では、人材登用の「回転ドア」も非常にうまく機能している。

 同研究所は、政府の政策決定者への直接的な影響だけでなく、メディアや国民一般へも大きな影響力を有している。たとえば、同研究所のHPの会員は170万人を超えており、月1万円を払う有料会員も1万人を超えている。短編の動画などを活用し、多くの社会問題をわかりやすく理解できるように工夫しており、独自の分析調査などができない中小企業の経営者などのニーズに合った情報提供をしている。ある調査によれば、韓国の国内メディアの1日1件以上の記事が、同研究所の研究成果などを引用しているという。同研究所の研究の質はあまり高いといえないが、タイムリーに行われている。ただし、同研究所はサムスンのためのもの、という批判もある。

 労働組合系では、ナショナルセンターである民主労総(全国民主労働組合総連盟)の政策研究院が事実上、活動を停止しており、主要な産別の労組の研究所は、常勤研究員が総勢でも20人程度で、研究への投資が脆弱である。

 次が、政党系シンクタンク。韓国では、2004年におこなわれた政党法と政治資金法の改正によって、政党国庫補助金の30%は、政党シンクタンクの設立と運営、事業予算に使うことが義務づけられた。政党だけでなく市民からも、国民のためにそのようなシンクタンクが必要であり、そのためなら税金を出してもいい、と考えられたためだ。たとえば、汝矣島(ヨイド)研究所(院内第1党であるハンナラ党系、1年で約70億ウォンの年間予算規模)、民主政策研究院(民主党系、同じく約40億ウォン規模)である。

 これらのシンクタンクは、

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