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武器禁輸緩和(3)自衛隊機「民間転用」の虚構

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 昨年末、北沢防衛大臣は武器禁輸緩和の意向を示した。だが、当時の鳩山首相は武器禁輸の緩和には否定的な意見を表明した。

そんななか、防衛省から持ち上がったのが、哨戒機XP-1を旅客機に、救難飛行艇US-2を哨戒や消火用に、輸送機XC-2を民間輸送機に用いるなど、自衛隊機の「民間転用」だ。民間機といっても警察などの「官需」も含むので、実際は「非軍事転用」と言える。自衛隊用に開発した機体をもとに民間用機体を開発し、これを海外に輸出するなら、「軍用機」の輸出ではなく「民間機」の転用となる。そうなれば、武器禁輸の原則に抵触せずに輸出が可能である、という理屈だ。これなら内閣の見解不一致も避けられる。

 輸出によって量産効果を高めて自衛隊機の調達コストを下げたり、研究開発費を輸出機に上乗せしたりして、多少なりとも研究開発費を低減しようという皮算業もあった。

 12月8日現在、菅直人首相は、年内にも改定される防衛大綱への武器禁輸緩和の盛り込みを見送ったとされるが、この方式をとれば「武器」ではないので輸出は可能となる。

 防衛省は自衛隊機民転・輸出に向けて、この4月から有識者や経産省ら関係省庁が参加した「防衛省開発航空機の民間転用に関する検討会」(以下、検討会)を開催している。だが、こうした動きは実際問題として、あまりに非現実的だ。

 まず、民間機として輸出するためには、欧米の型式証明や耐空証明を取らなければならない。これには莫大なコストがかかる。そのコストを減らすためには耐空証明をとっていない割高な国産サブコンポーネントを既に耐空証明を取得し、コストも安い外国製のコンポーネントに替える必要がある。三菱重工が開発しているリージョナルジェット機MRJでは、コスト削減のために多くの外国製コンポーネントを採用している。

 だが、そうなると自衛隊機と輸出機のコンポーネントの調達は別個になり、スケールメリットはなくなる。当然民間型としてのさらなる開発費も必要となる。コスト削減は容易ではない。

 少々専門的な話になるが、具体的にみてみよう。XP-1の主翼は、低空を哨戒飛行するのに適した設計であり、高空を高速で飛ぶことに特化した旅客機のそれとは異なる。エンジンは国産の専用エンジンを4発使用しており、整備コストが高い。このため主翼を6割程度に縮小し、高速用に適した形状に再設計しなおして、エンジンを双発にする必要がある。

 胴体にしてもウエポン・ベイ(機体内部の爆弾庫)は必要ないので、胴体断面を真円に近いものに替える必要がある。またXP-1の床下は非与圧であるが、胴体全体を与圧する必要がある。

 しかも、操縦系には、操舵信号を光ケーブルで伝えるフライ・バイ・ライトという世界初の新しい技術が使用されているが、まだ実績がない。人命と安全第一のエアラインがこれを「怪しげな新技術」と嫌がる可能性もある。これを通常のケーブルを用いたフライ・バイ・ワイアに替える必要が出てくる可能性は強い。このように旅客機型の開発には莫大な投資が必要となる。

 US-2の消火型に関しても、同様の困難が想定される。先述した「検討会」議事要旨には「消防飛行艇の市場は、世界で180機程度であり、全てをUS-2の民間転用機に置き換えられれば、現在の消防飛行艇の市場価格であるCL415、1機あたりの価格約30億円と対抗できる価格帯になる可能性あり」と述べられている。

 だが、先行機種を制してすべての市場を抑える、という前提は非現実的過ぎる。競合機と想定されているCL415(現在はボンバルディア415と呼称)は76機以上が量産されており、価格は25億円である。最大離陸重量は陸上では19.95トン、水上では17.24トンである。これに対してUS-2は最大離着陸重量47.7トン、最大離着水重量は43.0トン、機体重量は2倍で、別のカテゴリーの機体である。CL415は双発、てUS-2は4発で、運用コストも桁違いに異なる。CL415ユーザがUS-2に乗り換えるならば、ハンガーや機体の洗浄設備などに対する投資も必要となる。スムーズに置き換わることを想定するなど、おとぎ話の類である。

 また、XC-2の民間型であるYCXは、パレットやコンテナでは運べない非定型貨物、例えばジェット・エンジンや車輛などを運ぶ。市場にはXC-2より値段も安く実績のあるイリューシンIL-76などがすでに存在し、競合しなければならない。自衛隊向けの価格が200億円近いことを考えると、普及は絶望的ではないだろうか。

 「検討会」に提出された資料によると、この種の輸送機は、成長著しい中露市場を除いても2026年までに230機程の需要があるとされている。だが、この数字はかなり過大に見積もられているだ。筆者が取材した川崎重工の関係者は「全世界で100機程度でないか」と述べている。この会議の資料はネットで公開されているが、このように、希望的観測に基づく記述が多いように思える。本来この種の会議は、中立的な機関やコンサルタントに資料の作成を依頼すべきところだ。

 そもそも民間転用には、売り込みのためのコストもかかる。広告宣伝費もかかる。海外で飛行機を売るためには、販売やユーザー・サポートのための拠点構築も必要だろう。航空ショーに実機を持ち込み、デモを行うならば1回当たり数億円のコストがかかる。また、このデモに自衛隊機を使うならば、そのコストを誰が負担するのか、ということも問題となる。

 航空機、特に大型の航空機の販売には莫大な先行投資が必要であり、それが必ずしも回収できるとは限らない。しかも ・・・ログインして読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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