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自民党・谷垣禎一総裁インタビュー:「野党もやってみると難しい」「大連立には否定的です」

星浩

星浩 政治ジャーナリスト

 臨時国会の閉会後、菅首相や自民党の谷垣総裁周辺があわただしい。話題は民主・自民の「大連立」。しかし、その道のりは簡単ではない。と同時に、「何のための大連立か」も問われる。「ねじれ」下で政権と対峙した谷垣総裁に、星浩・朝日新聞編集委員が、民主党政権と自民党の今後を聞いた。※10日付朝日新聞朝刊、asahi.com(URL)に関連記事があります。(9日、自民党本部で)

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 新聞社も新しいビジネスモデルを模索中で、WEBRONZA(ウェブロンザ)もその試みの一つです。

谷垣 ウェブだと、昔で言う紙面作りや記事の内容も変わってくるんでしょうね。

 変わってきますね。今までの新聞は、ニュースの価値判断というか、紙面のどこにどういう見出しや記事を置くか、というのが一つの売りでした。でもウェブでは、みんなそれぞれ好きなジャンルや記事を思い思いに読むので、価値判断を押しつけることはできない。新聞とウェブを平行して発信しなくてはならないのが、難しいです。

 

■民主党のマニフェストは挫折した

 

 今回はウェブですので、ボリュームは自由自在です。ゆっくりとお話を伺いたいと思います。まず、菅政権の現状をどうご覧になっていますか。

谷垣 この間の臨時国会は、特に外交問題の処理や閣僚たちの問題など、言ってみれば「敵失」が随分ありましたから、どうしても世間の関心がそちらの方向に向かいました。

 ただ、私から見ると「菅政権として何をやっていくのか」という点が(政権発足から半年たっても)クリアではないように思います。確かに、表面的には所信表明演説などで、「強い経済」「強い社会保障」と言っていますが、現実に何を目指しているのか、本当は何をやりたいのかが伝わってこない。

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 政権交代して、鳩山政権が初めて予算を組んだ昨年末も「政治主導」が叫ばれましたが、うまく予算が組めませんでした。民主党は「自民党は官僚主導だったが、自分たちは政治主導だ」と言うのですが、その政治主導がほとんど機能していません。これは、自民党時代に慣れ親しんでいるから批判するのではなくて、いろいろな現場の声や地方の声を吸い上げられていない。仙谷官房長官の周辺には霞が関の役人が多数あつまって、プロジェクトチームを組んで問題を解決しようとしていますが、そうした官僚のノウハウや人脈もあまり使いこなせていない気がします。彼ら自身も「こんなはずじゃなかった」と思っているのではないでしょうか。

 もちろん、子ども手当や農家の戸別所得補償など、個々の政策を詰めて議論すれば、いろいろな評価があり得るかもしれませんが、私たちはこれらについても批判的です。「予算の組み替えをやれば財源はいくらでも出てくる」と言っていたのに、結局、話が進んでいない。私は、民主党のマニフェストの基本構造そのものも挫折したと見ています。

 外交についても、鳩山政権がスタートした時は、「日本はアメリカの言いなりを卒業してアジアとの共生を目指す」と言っていました。ところが、実際やってみたら普天間の移設だけとっても、なかなかうまくいかない。そこで、菅さんは「日米基軸」と言っていますが、自民党政権と違う方針でやっていくという大前提が揺らいでいます。彼らもはっきりした視点や目的意識が持ちにくくなっているんじゃないか、というのが率直な印象です。だから「これをやりたい」という菅さんの姿勢も見えてこない。

 

 鳩山政権と合わせて15カ月となる民主党政治は、逆から見れば、自民党の野党時代でした。この15カ月の民主党政権について、方向性や理念はそれなりに間違っていないのに手法が稚拙・未熟だ、経験不足だという議論があります。どうお考えですか。

谷垣 やり方が稚拙だった面はあるでしょうね。だけど、単なる稚拙さというのを超えて、日本の政治の基礎的条件というか基本的方向をどう見いだしていくのか、ということ自体が、混迷していると思います。

 例えば、子ども手当をやり、戸別所得補償をやり、高校は無償化し、高速道路料金はタダにするというのだから、これはどう考えても「大きな政府」路線だろうと思う。ところが、そのために今までの財政の無駄を削って財源を捻出するとなると、「小さな政府」を目指しているのかもしれない。これは一体、何なのか。この2つをつなぐ理念はどこにあるのか、よく分からない。手品みたいな話に思えます。

 これは一つの例に過ぎませんが、そうした根本的な方向性が分からない。私たちと違う方向性だから分かりにくいというだけでなく、どうもこの1年数カ月の間、ずっとよく分からない状態でした。私は、相当、否定的な見方をしています。

 

■綱領もない、「味」もないサラリーマン政治家

 

 外交もそうですが、民主党政権は「国家がどういう役割を担うのか」という点も曖昧です。これは、谷垣さんが以前から言っているように、「民主党に綱領がない」ということと絡んでくるのでしょうか。

谷垣 おそらくそうだと思います。まあ、自民党もかつて自由党と民主党が合併してできた政党です。いろいろな流れの人がいて、それが派閥という形につながってもいましたが、民主党もある意味、私たち以上に非常に雑多です。

 ちょっと脱線気味に言うと、自民党も最近、そういう人が少なくなったかもしれませんが、昔は党の部会などで、役人を呼んでつるし上げるようなかなり緊迫した議論もよくやりましたよね。だけど、役人をガンガンやっつけていたかと思うと、いきなりその役人に「まあ、君らも苦労してるよな」と声をかけて、みんなが思わず笑ってしまったりするような「味」というのが、自民党の政治にはありました。そういう意味では、民主党のトップにいる人たちを見ると、そういう面白みに欠ける気がします。頭はいいんだろうし、政治家はおとなしいだけじゃいけなくて、アグレッシブではあるんでしょうけど、なんというか幅が狭い。例えば、民主党政権の中でも亀井(静香)さんなんかを見ると、政策は別として、やっぱり面白いですよね。面白ければいい、というわけじゃないにしても。

 人間力でしょうか。

谷垣 私が言うと、「谷垣には言われたくない」って言われるかもしれないけれど。でも、一観客として見れば、そういう感じがしますね。

 まだ経験が浅いだけで、経験を積めば老練になるのか。それとも、そういう体質なのか。

谷垣 そこはよく分かりませんが、出自の違いみたいなものがあるかもしれないですね。自民党にもいろいろな出自の人がいるので、みんながみんなそうだというわけではないですが、かつての自民党の政治家は、その地域に土着した人、加藤(紘一)さん流に言えば「名望家」がずいぶんいました。そもそも今の時代に名望家が存在するのかどうか分かりませんが、町長選挙の候補者で困ったら、「あいつの親父もお祖父さんも町長だったんだから、あいつに泥をかぶってやってもらうしかない」となって、説得された本人も「そういうものかな」と思う。そうした地域に根ざした存在が今でもいないわけではない。

 ところが、いいか悪いかは別にして、一部の若い人たちのように、政治以外の仕事の経験もなく、街頭演説で政治家になる、といった例が増えています。そうした政治家の作られ方の質の違いがあるのかもしれませんね。

 もちろん、私たちの仕組みがよかったかどうかは別で、反省もしているから公募を進めているわけですが、今はある意味、小選挙区的な政治家の育ち方が主流なのかもしれません。

 昔の中選挙区制のもとでは、候補者を派閥が発掘して、面倒を見て、自民党の政治家同士が競い合いました。ところが、公募して候補者を選んでいてつくづく思うのですが、小選挙区では「あいつは何派の支援で擁立された」とはあまり認識されずに、選挙区ごとの地域組織の責任が大きくなる。イギリスの政党もそうなのかもしれませんが、地域組織が強くなると、その組織の上にぽんと乗っかる形の選挙になっていき、みんなに嫌われたら当選できない構図ができあがります。政治家が一国一城の主というより組織の一員、もう少し悪く言えばサラリーマン的になっている気がします。

 これには、民主党だけを批判するわけにはいかない面もあります。「人のふり見て我がふり直せ」と思っています。

 

■世間の自民党に対する見方が変わった

 

 谷垣さんの描いていたスケジュール感があると思いますが、この15ヶ月、自民党のリニューアルはどのくらいまで進みましたか。直近の世論調査を見ても、国民からするとまだ、もういちど自民党に政権を戻そうというところまで至っていない感じがします。

谷垣 私たち政治家の仕事は、やっていることがある程度国民に理解されることが必要ですから、そういう意味ではまだまだです。だけど、やっている作業自体は、かなりの部分を終えています。どこが変わったのか見えてこないとか、反省が不足しているとかいう指摘は出てきていますが、実態は、かなり進んでいます。

 野党のころの民主党は、どんな形でもいいからとにかく自民党を倒して政権を奪おうとしていました。しかし、自民党の支持基盤などを見ると、良質な保守の人たちには、「民主党の足を引っ張るだけじゃなくて、少しは助けてやってもいいんじゃないか」という意見もあります。

谷垣 これには賛成・反対、両方の意見があると思うんですよ。

 自民党に対する世間の見方、あるいは政権に対する世間の見方の変遷も関係しているだろうと思います。特に、総選挙に負けた直後は、自民党に対して非常に冷たい視線が注がれました。ですから、少し前には、「説教ばかり」とか「上から目線」、あるいは「戦う姿勢が見られない」と批判されました。

 ところが今は、どちらかというと「相手の向こうずねをけっ飛ばすようなことばかりするのはやめたほうがいい」という議論になっています。そうなってくると、国会の質問や議論の仕方も、もう少し提案型というか、私たちの考えている政策、「私たちならこういう日本を作る」という主張のほうに重点を移していかなければならないのかもしれません。

 ただ、それも行き過ぎると批判が出てくると思います。「なんだ、与党の問題点を指摘しないなんて、野党が野党の役割を果たしていないじゃないか」という議論に必ずなる。だから、なかなか難しいですね。野党もやってみると難しい(笑い)ということじゃないかと思います。

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 さて、年末の予算編成を経て、来年1月には通常国会が召集されます。どのような見通しを描いていますか。

谷垣 通常国会の最も大きなテーマは、予算と予算関連の税制改正法案や特例公債法案ですが、これはまだ形が見えてこない。今後の仕上がりをよく見なければならないと思っています。ただ、まず臨時国会で(仙谷・馬淵両氏の)問責決議が通っているわけで、これに対して「法的効果がない」とか「参院だから効果が違う」と言われても、「それで事態が進展するのか」と思ってしまいます。向こうの出方もよく見なければいけませんが、正直、たとえ協力しようと思ったとしてもなかなか難しい状況だと思います。

 

■大連立には「よほどの大義名分」が必要だ

 

 谷垣さんご自身は、民主党と自民党の「大連立」について、今後どのようなスタンスで臨みますか。 ・・・ログインして読む
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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

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