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条例改正案から小説・映画を対象外とする東京都知事の見識

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 6月に提出され、多くの批判を浴びた「青少年保護育育成改正案」が11月30日に修正され、再び提出された。13日現在、12月都議会の総務委員会で可決され、15日の本会議の採決を待つ状況となっている(asahi.com記事「性描写漫画の販売規制、東京都議会委員会が可決」参照)。

 前回否決された改定案は、漫画・アニメーション等に登場する18歳未満のキャラクターを「非実在青少年」と定義し、この性行為の描写を恣意的に規制しうる規定を持ち込んだ。このため漫画家、出版関係者、文学団体、法曹界はもとより、多くの市民が反対を表明した。

 このため12月都議会に改正案が提出されたのだが、批判を浴びた「非実在青少年」という文言を撤回し、規制対象をすべての年齢に拡大している。また規制する対象を、刑罰法規に触れる性交や、婚姻を禁止される近親者間の性交を不当に賛美・誇張して描写したもの、としている。

 東京都青少年健全育成条例には、すでにいわゆる淫行処罰規定(青少年との「みだらな」性交又は性交類似行為の禁止。第18条の6および第24条の3)があり、その範囲は不明確でいかようにも恣意的に拡大が可能である。改正案はむしろ「改悪」である。

 東京都には多くの出版社やアニメプロダクションなどが集中しており、都の規制は事実上、国の法律と同様に全国的な影響力を有している。ことは東京都のみの話ではすまない。

 警察による恣意的な捜査や規制が行われる可能性もある。東京都の公安委員会は警視庁の建物内にあり、委員はお飾り、職員は警視庁の人間である。警視総監をはじめ警視庁の幹部職員は警察庁の人間であり、都知事に人事権はない。つまり警察の暴走を止められない。

 一部のマンガなどの表現には問題もあるだろう。だからといって投網をかけるような強力な規制に踏み込む必要がどこまであるのか、大いに疑問が残る。一部の暴走族を取り締まるために、一般ドライバーに大きな不便をかけた交通規制も辞さないとすれば、不満や広義の声が高まるのもゆえなきことではない。

 筆者はこの規制に反対の立場だが、百歩譲ってこの規制が正しいとしても、何故、小説や実写の映像が含まれていないのだろうか。

 その理由は第一に、都の「親分」である石原都知事が「文学者」だからではないか。都知事が文壇に華々しくデビューしたのは「非実在青少年」が都の淫行処罰規定に抵触する行為を肯定的に行う姿を描いた「太陽の季節」である。また「処刑の部屋」は強姦や監禁拉致を肯定するようなストーリーだ。両作ともに映画化されている。その他にも都知事は知的障害のある女性を輪姦してソープランドに売り飛ばす、「完全な遊戯」なども執筆している。

 これらがマンガ化・アニメ化されれば確実に「青少年保護育育成改正案」の規制対象となるだろう。それだけではない。近親相姦、ロリコンなんでもありの「源氏物語」などの古典や神話なども規制の対象になるはずだ。

 第二の理由は「活字はマンガやアニメほど影響力がない」という言い訳だ。現に都は「文章による表現は受け手の能力を要するが、漫画やアニメは視覚的に年齢問わず、認識してしまう。小説に比べ、知識のない子供が影響を受けやすい」(MSN産経ニュース:「表現の弾圧ではない」 東京都が青少年健全育成条例改正案を説明)と述べている。

 かつて小説やPCゲームのシナリオも担当してきた筆者の立場から言えば、これほど子どもをバカにした話はない。考え方によっては、マンガやアニメより小説の方がむしろ危険なのである。それがわからないのは、規制賛成派や東京都の担当者の文化水準、あるは知的水準が低いからだろう。

 確かに、視覚に訴えるマンガやアニメなどは視覚的刺激が強いが、それ以上の想像や妄想はさほど生まない。これに対して、活字は無限の想像力や妄想を掻き立てる。それが証拠に、優れた映画監督や映像作家、マンガ家はたいてい読書家である。映像作家が映像やマンガだけ見ていては優れた作品をつくることはできない。

 それとも「文学者」たる石原都知事は「文学なんて、アニメやマンガの足下にも及ばない影響力しかない。たいしたもんじゃない」と仰るのだろうか。そのような文学の敗北宣言をされるのだろうか。今日びの中学生・高校生は小説など読まない、と仰るのだろうか。

 影響力の強さからいえば、マンガやアニメよりも小説を先に規制すべきである。

 都知事は、現状の野放し状態は外国から野蛮と言われている、などと発言もしているが、かつて「Noと言える日本」を著した「国士」の言とは思えない。

 我が国はマンガ・アニメ大国だが、ほかの先進国と比べて性犯罪や暴力事件が極端に少ない。これをどう説明するのだろうか。アニメやマンガが性犯罪の元凶ならばアメリカや南アフリカでは日本人の何千倍もアニメやマンガを消費していなければおかしい。

 白人の旦那様が説教を垂れたら、子どもの使いよろしく「イエス・サー」と最敬礼して規制をするのが、気骨ある日本人することか。

 そもそも論でいえば、女性は16歳で結婚が出来る。つまりセックスをしても宜しいと法律で決まっている。その「大人の女」を18歳未満は「児童」であると称して、幼稚園児や小学生と同様に扱うこともおかしい。また未成年がセックスしてはいけないと法律で規制されてもいない。結婚してするセックスはいいセックスで、未婚者のセックスは悪いセックスとでもいうのだろうか。

 筆者はこの問題を比較的早い段階から追っているが、石原都知事の言動をみるに、どうも肝心の条例案を読んでいないように思われる。

 最近でも最新号の「週刊プレイボーイ」(12月27日号)のインタビューで、「私は自分で見定めていますが、野放図になっていますよ。あちこちのコンビニで、それを見ました」と述べているが、これは虚偽である。コンビニは極めて厳格な自主規制を行っていて、アダルト向けの本は「成人向け」コーナーに区分けされており、雑誌類もテープで封印され中身を見ることができない。また過激なものはそもそも仕入れない。書店よりもむしろ、厳しく対応しているのだ。コンビニを利用する人間なら誰でもわかることだが、普段コンビニを利用されないであろう都知事閣下は、想像を逞しくして「捏造」したのではなないか。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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