小北清人
2010年12月18日
(1)またも、黄海の島から炎と白煙が上がった。上陸する北朝鮮軍。11月には北朝鮮の沿岸から13キロの延長島が砲撃されたが、こんどはまた別の島が狙われ、しかも奇襲攻撃で一気に軍事占領されたのだ――。
(2)韓国の中小企業が北の労働者を使い操業する工業団地、「開城工業団地」。今年3月の北による韓国哨戒艦爆沈事件(乗組員46人死亡)以来、ほぼ断絶状態となった南北間で唯一、続いている経済協力事業だ。この団地は北朝鮮軍部の貴重な収入源になっている。南北軍事境界線に近い、北の領内のこの団地を、北朝鮮軍が突如として占拠、韓国企業の社員らが人質にされた。かねての懸念が現実となった――。
(3)北の潜水艦が日本海側から韓国領海に侵入、特殊部隊員が上陸した。目指すはソウル・韓国大統領府。1968年には北の武装ゲリラ部隊が当時の朴正熙大統領暗殺のためソウルに侵入している――。
(4)軍事境界線近くに設置された「対北大型拡声機」(金正日体制の非道ぶりを非難するために設置)。拡声機は北が心底嫌がっているもので、それを破壊するための銃撃、砲撃が北の部隊によって行われた――。
(5)韓国国内で地下鉄やバスなどの公共機関、発電所やダムで奇妙な事件が続発する。韓国に深く浸透している固定工作員が指令を受けて破壊工作に動き出した――。
これらは、延坪島砲撃以来、韓国のメディアなどで言及されてきた「北は次に何をやってくるのか」の例の一部だ。
軍事専門の韓国国会議員は韓国メディアにこう語っている。
「我々が西海(黄海)を集中警戒すれば、北は東海(日本海)から破壊活動を狙う。その逆もあり得る。軍事境界線の向こうから長距離砲で砲撃してくるのを我々が警戒すれば、北は特殊部隊のソウル侵入を狙ってくる。サイバー攻撃もあり得る」
さる日本の全国紙は「北朝鮮に詳しい消息筋」の話として、年内に、韓国本土への砲撃の可能性があるとの情報を伝えた。
このいくつかを北が同時多発的に起こしたら、いや、そのひとつでも実行に移したら、朝鮮半島は未曽有の事態に直面する。これまで北は300回以上、韓国に軍事挑発を行ってきた。だがいまの状況は以前とは次元が違う。延坪島を「やられた」韓国政府は、北への強力な軍事報復を迫られる。新任の国防長官は実際、「断固報復する。空爆も行う」と明言している。国民も要求するだろう。対する北は2度の核実験を行っており、生物・化学兵器も保有するとみられている。
全面戦争となる規模の攻撃を北が仕掛けるのはまず考えられない、というのが韓国でも大方の見方だ。全面戦争を最も恐れているのが金正日氏を頂点とする北の指導部、エリート層なのである。そうなれば平壌が灰燼に帰すのはわかりきっているからだ。
が、いまは、局地戦や軍事挑発を北がまた仕掛ければ、かつてない「危険なゲーム」となる。熱戦へのハードルは近年ないほど低くなっているのである。
延坪島砲撃によって、金正日氏は期待しただろう。恐怖に駆られた韓国がヘナヘナになって、「戦争は怖い。カネもコメも北が要求するだけどんどん好きなだけ渡してしまえ」と世論が飛躍的に高まることを。それと同時に左派勢力への支持が高まり、2012年の大統領選で「親北候補」が勝利する土台が出来上がるであろうことを。
だが結果はいまのところ、裏目に出ている。
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