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クラスター爆弾廃絶に向けた日本の役割

土井香苗

土井香苗 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

 クラスター爆弾の使用禁止や廃棄などを定めた「クラスター爆弾条約」が、今年8月に発効してから4カ月が経った。先月、ラオスの首都ビエンチャンで、記念すべき第1回締約国会議が開催され、日本など、クラスター爆弾条約の批准国40カ国を含む、世界各国から121の政府が参加した。

 最終日には、ビエンチャン宣言と、66項目から成るビエンチャン行動計画が採択され、「クラスター爆弾なき世界」に向け、具体的な手順を示す大胆な行動計画の採択は、重要な前進といえる。

◎クラスター爆弾の非人道性

 クラスター爆弾は、空中で爆発する親爆弾が、多数の子爆弾をまき散らす兵器である。数十から数百の子爆弾が、サッカー場ほどの広い面積に無差別に散乱するのが特徴で、広範囲にわたり人や車両を攻撃する。よって、人口密集地で使用されると、多くの民間人を殺傷する結果が不可避な無差別殺傷兵器だ。

 クラスター爆弾のもう一つの問題点は、着弾時に爆発しないことが多く、投下後も地雷のように不発弾として残り、戦闘終結後も兵器として土地を汚染してしまうことである。このクラスター爆弾の不発弾のために、毎年、多くの子どもや農民などが犠牲となっている。

 約50年前、ベトナム戦争で初めて大規模に使用されて以来、クラスター爆弾は、多数の罪のない民間人を殺傷してきた。クラスター爆弾条約の第1回締約国会合が開催されたラオスは、ベトナム戦争で米軍が多数のクラスター爆弾を投下した場所なのである。最近でも、クラスター爆弾は、イラク戦争や2006年のレバノン紛争、2008年のグルジア紛争などで使用され、多数の民間人被害者を生んでいる。

◎クラスター爆弾連合の結成と条約成立

 このように、世界的な人道危機の原因であるにもかかわらず、世界各国の政府はクラスター爆弾の問題に対して迅速に対応しなかった。特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Conventional Weapons:CCW)という条約の枠組みで、締約国政府がクラスター爆弾について話し合ってはいたが、交渉は遅々として進まず膠着状態に陥っていた。

 そこで、通常の政府間交渉だけに頼っていられないと立ちあがったのが、ヒューマン・ライツ・ウォッチを含むNGOであった。世界各地から多くのNGOが集まり、「クラスター爆弾連合(CMC)」という連合体を結成した。そしてこの「クラスター爆弾連合」は、ノルウェーなどのクラスター爆弾禁止に積極的な政府の協力を得て、2007年2月、クラスター爆弾条約成立に向けての交渉開始にこぎつけたのだ。NGOが仕掛けたこの条約交渉は、通称「オスロプロセス」呼ばれている。

 この「オスロプロセス」は順調に進み、交渉を開始してからわずか15カ月後の2008年5月には、クラスター爆弾の使用・製造・取引・備蓄を完全に禁止するクラスター爆弾条約の採択に至った。しかも、この条約は、保有クラスター爆弾の8年以内の廃棄、クラスター爆弾汚染地域からの10年以内の不発弾除去、そして、クラスター爆弾の被害者や影響を受けているコミュニティへの支援を義務付けるという画期的な内容であった。

 そして、条約採択後、批准国も順調に増え、今年8月1日、ついに条約として発効した。すでに、108カ国が署名し、日本も含め48カ国が批准するまでに広がりをみせている。クラスター爆弾条約には、ラオスをはじめとするクラスター爆弾の被害国が加わっているのはもちろん、クラスター爆弾を過去に使用・製造・保有していた国も多く加わっている。これらの成果が、この条約が過去10年間で、最大の国際人道法上の前進だと賞賛される所以である。

◎軍事大国の思惑を巡る課題と可能性

 しかしながら、課題も山積している。そのひとつが、米国、中国、ロシアなど、クラスター爆弾を大量に保有する軍事大国が条約に加わっていないという問題だ。

 米国、中国、ロシアの3国とも、クラスター爆弾を全面禁止するのでなく、一部制限するにとどめようと画策している。つまり、3カ国が共に加盟している特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の下で、より規制の緩い「議定書」を作るべく、すでに5年以上も交渉を続け、クラスター弾禁止に例外規定を設け、長期の移行期間を設定しようとしているのだ。

 こうした「骨抜き」の議定書を作成することは、クラスター爆弾の全面禁止を定めた条約の影響力を削ぐ可能性がある。世界は、こうした骨抜きの代替案を断固として拒否し、クラスター爆弾の全面禁止を貫くべきである。そして、クラスター爆弾にはっきりと「非人道兵器」という「烙印」を押し、条約に入っていない軍事大国であっても、事実上クラスター爆弾を使用できない環境を作るべきである。

 これは十分に実現可能な目標なのである。たとえば、対人地雷が、国際的に禁止され、軍事大国も使えなくなるまでの過程を見てみよう。1997年の対人地雷禁止条約によって、対人地雷には、非人道兵器という烙印が押された。使用すれば全世界からすさまじい非難を浴びる状態を作り出すに至ったのだ。その結果、米国をはじめとする条約非加盟国も、事実上、対人地雷を使うことはできなくなった。これは、クラスター爆弾でも、同様の状況を作ることは十分可能であることを示す好例であろう。それと同時に、クラスター爆弾条約に加盟していない米国・中国・ロシアをはじめ、ブラジル、インド、パキスタン、韓国などの政府に対しては、条約への加盟を強く求め続けていくことが不可欠だ。

 その意味で、「クラスター爆弾のない世界」の実現に向けて先月、第1回締約国会議で採択されたビエンチャン宣言、そして、66項目から成るビエンチャン行動計画は、大きな意味を持つのである。

◎日本の果たすべき役割

 ビエンチャン宣言では、 ・・・ログインして読む
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筆者

土井香苗

土井香苗(どい・かなえ) 国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表

国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。1975年生まれ。東大法学部在学中の1996年に司法試験に合格後、4年生の時、NGOピースボートで、アフリカの最貧国エリトリアへ。同国法務省で1年間、法律作りを手伝うボランティア。98年に大学卒業、2000年に司法研修所終了。著書に「“ようこそ”といえる日本へ」(岩波書店 2005年)など。

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