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武器禁輸緩和(4)「オフセット」をなぜ導入できないのか

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 兵器の大口の国際間の取引では、オフセット(相殺や埋め合わせ)という制度が常用されている。これは輸入する側が、輸出側に対して何らかの見返りを求めるものだ。

 見返りを払ってまで輸出をしたいのは、自国の兵器産業を維持したいからだ。国内市場だけでは工場の稼働率を維持したり、多くの従業員を雇用し続けることができない。

 オフセットは取引額のパーセンテージに対して、30%とか100%というような割合で設定される。

 例えば1機100億円の戦闘機を50機調達すれば総額が5千億円となる。オフセットの設定が50%であれば、2500億円が「見返り」の対象となる。オフセットは輸入国にとってメリットが大きいが、我が国では導入されていない。

 民主党は2009年の総選挙で提示した「政策インデックス」で、防衛装備に対するオフセットの導入を謳っている。民主党では白眞勲参議院議員、自民党では中谷元衆議院議員がこのオフセットの導入に積極的だ。

 オフセットには大きく分けて二つの種類がある。「直接的オフセット」と「間接的オフセット」だ。直接的オフセットとは、例えば戦闘機を導入するならば、その戦闘機の一部の国内メーカーによる製造や自国産の搭載機器の採用を求めるなど、その兵器に関わる下請け仕事を要求するといったものだ。例えば南アフリカは2000年に英国のBAEシステムズ社の練習機ホークを導入したが、オフセットの一部として、ホークに南アのATE社のミッション・コンピューターが採用された。このコンピューターは他国、例えばインドへ輸出する機体にも搭載されている。

 これならば機体を自国でライセンス生産せずに輸入しても、国内メーカーに仕事が落ちる。また自国が担当する部分に対しては、メーカーからの技術移転も期待できる。

 もう一つの間接オフセットは、兵器を導入する代わりに、相当金額の自国の製品、例えば自動車部品やリンゴやワインといった農産物など、その兵器とは直接関係ないものの輸入、あるいは工場の誘致や自国内への投資を要求するものだ。

 例えば輸送機を買う代わりに、新幹線を導入してくれとか、米を買ってくれというようなことを要求するわけだ。仮に1千億円ほどの米がオフセットで売れるならば農業補助金が大きく削減できるだろう。

 投資ならば、民生品に限らず、自国の企業と合弁で装甲車の工場をつくれとか、ミサイルの工場を造れと要求する場合もある。技術移転と投資の両方が期待でき、「1粒で2度美味しい」オフセットだ。

 オフセットは、輸出側に相当額の義務が生じるので、むやみやたらに兵器の値段をつり上げることを防止する効果もある。

 だが、我が国がオフセットを導入するのは、現状ではほとんど不可能だ(ただし、ライセンス生産もオフセットに含める考え方はある)。

 その理由は大きく二つある。まず我が国では、兵器調達の方法が国際的な常識とかけ離れているからだ。普通の国では兵器調達に関して調達数、期間、総額が決定され、これが議会で承認されて予算化される。ところが我が国の兵器調達プログラムでは、調達数、調達期間、総額が決定されないのに、なし崩し的に調達が開始される。民間企業にたとえれば、設備投資をする際に、取締役会が承認しないまま投資が始まるようなものだ。

 これでは金額のパーセンテージが出せないし、履行期間も確定できない。またメーカー側もコストや利益の計算が出来ないはずだが、我が国ではなぜか問題にされてこなかった。このなし崩し的な調達が調達単価高騰の要因になっている。

 オフセットを導入するのであれば、こうした特異な調達システムを見直す必要がある。調達数、調達期間、予算総額を決定しないとオフセットが設定できないからだ。調達方法を改めれば、装備調達コストの低減という副次利益も得られる。むしろ、このメリットのほうが、オフセット自体のメリットよりも大きいかもしれない。

 第二の理由は、「武器輸出三原則等」によって武器の輸出ができないので、直接オフセットが導入できないことだ。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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