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新防衛大綱と戦車(3)中国人民解放軍とロシア軍の実力は?

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 筆者は、戦車の有用性は認めるし、21世紀の戦場において戦車がまったく不要だとも思わない。今後も、陸上自衛隊にとって、戦車部隊の保持は必要である。だが、陸自の装備全体を見渡せば、戦車の優先順位は低い。戦車よりも優先すべき課題はあまりにも多い。

 前回も述べたが、我が国本土に対する本格的な侵攻、即ち師団単位の敵地上軍による上陸作戦が行われる可能性は極めて低い。恐らく今後30年ぐらいのスパンで見て、まず起こりえないと考える。であるから島嶼防衛のための部隊編成やそのため機材の充実、北朝鮮や中国の弾道ミサイルによる恫喝に対抗するためのMD(ミサイル防衛)の充実、ゲリラ・コマンドウ対策や、北朝鮮崩壊時の武装難民発生など、より起こりうるシナリオに資源を集中すべきだ。

拡大想定されるシナリオでは戦車よりも歩兵が必要とされる。

 そんなときに、不要不急の戦車などに人・モノ・金をつぎ込んでいては、起こりうるシナリオに必要な備えができなくなる。

 我が国の「仮想敵」たるロシア、北朝鮮、中国には、連隊規模の揚陸作戦を実行できる能力はない。空輸を含めても、せいぜい機械化歩兵連隊を数個揚陸できる程度だろう。

 揚陸艦などの積載数は戦車や装甲車輛、兵員の数で表されるが、実際には相当量の弾薬・食料、燃料、非直接戦闘に関する装備人員、それらを輸送するトラックなどの兵站車輛やヘリなども揚陸する必要がある。さらには、戦闘で消耗した兵員や物資の補充も継続的に必要だ。

 有力な日米の海空戦力が、これら揚陸部隊を無傷で揚陸させることは今後数十年にわたってないと考えてよい。少なくとも、その輸送船団の何割かは、日本上陸前に海の藻屑となるはずだ。

 そもそも中国やロシアに、我が国と同盟国たる米国を敵に回して、大規模な戦争を行う実力はない。確かに中国の軍事費は1998年以降、毎年15.9%程度の2桁の成長を続けている。中国の軍事費は不透明で、この公表されている数字の2~3倍程度であるというのが世界の専門家の共通した見方である。これらの事実を背景に中国脅威論を唱え、過剰に中国の脅威を煽る専門家も少なくない。

 だが、中国は我が国や米国、台湾とだけ張り合あっているわけではない。我が国の約25倍という広大な領土を持つ中国は、多くの国と国境を接している。しかも、その多くと友好的とは言えない関係にある。中国にとって最大の仮想敵はインドだろう。そのインドとは近年、インド洋で軍拡競争を行っている。

 また、国内のウイグルやチベットなど少数民族の自治区でも、中央政府に対する不満と独立への意欲が強い。大規模な戦争を起こすと、これらの自治区で反乱が起こる可能性もあるので、それにも備える必要がある。

 ちなみに中国の輸出先は米国が1位、次が香港だが、実質的な2位は我が国である。また、輸入先は我が国が1位で、米国は4位と日米中の相互依存度は高い。しかも我が国から中国への輸入は工作機械や中間材料などが多く、中国は、これらを使って輸出用の工業製品をつくる、いわゆる加工貿易を行っている。中国へは日米からの投資も多い。さらに言えば、中国政府は外貨準備の多くを米日の国債で保有している。米国や我が国とことを構えれば、中国の経済、金融は麻痺し、自壊する可能性が高い。

 つまり、我が国の最大の軍事的脅威は中国であるが、我が国あるいは米国との大きな軍事衝突は想像しにくい。短期的、中期的に最も起こりうるシナリオは、尖閣諸島問題のような中国との領土や領海をめぐる小規模な紛争だ。これらに対する備え、中国が領土紛争を起こす誘惑に駆られないような防衛力の整備、特に水陸両用戦能力と兵力投射能力の充実が必要である。

拡大中国は新型兵器を多数開発しているが、依然、旧式装備も多い。

 では、対ロシアはどうであろうか。ソ連時代は2億9千万人だったロシアの人口は、ウクライナや多くの共和国がソ連から離脱したことによって減少し、現在のロシアは1億4千万人、我が国よりも若干多い程度に過ぎない。

 ロシア軍の兵力は現役113万人、予備役200万人、これまたソ連時代の530万人から大きく減じている。それに対して、ロシアの国土は日本の45倍も広い。その領土を自衛隊の4倍程度の兵力で守らなければならないのだ。

 ロシアと長い国境を接している中国は、先に述べたように、毎年2桁の軍事費を増大させており、軍の近代化を進めている。しかも中露国境側沿いのロシア側は人口の減少が続いている反面、多くの中国人が住み着いてもいる。これはロシア側から見れば「間接侵略」の動きと受け止められており、この地域にも相応の兵力を貼り付ける必要がある。

 また、ロシア国内ではチェチェンなど少数民族も反乱やテロを繰り返しており、これらに対する抑えも必要である。このあたりの事情は中国と同じだ。ロシアに我が国と事を構えるような兵力的余裕は無い。

 しかも、ロシア軍には将兵の質に問題がある。 ・・・続きを読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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