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日中関係における「可測性」の蓄積を

櫻田淳

櫻田淳 東洋学園大学教授

 諸々の辞書では、「不可測性」の言葉は出て来るけれども、「可測性」の言葉は出て来ない。一般的には、安全保障政策の趣旨は、この「不可測性」を減らす努力として説明される。他国からの侵略からテロリズムに至るまで、人々の平常の生活の安寧を破る「不可測な出来事」を、どのように減らしていくかということが、安全保障政策の目的である。

 しかし、安全保障を含む広い意味での対外政策の趣旨は、「不可測性」の減殺というよりも、「可測性」の蓄積にこそある。情報収集、対外広報、海外交流といった事柄に絡む施策は、この「可測性」の蓄積に結びついている。「可測性」とは、「このような場合には、このように対応するであろう…」という一種の安心感を互いに獲得し、あるいは提供すること意味する。対外政策の展開に際しては、明示されたものにせよ暗黙のものにせよ、「このような場合には、このように対応するであろう」という了解の積み重ねが、それを円滑にするためには大事なのである。

 鳩山由紀夫前内閣の対外政策対応における最たる失敗は、この「『可測性』の蓄積」を趣旨とした過去の努力を尊重しなかったことにある。鳩山は、在沖米軍普天間基地移設案件への対応を通じて、「東アジアにおける安定の礎石」として位置付けられた対米関係における「『可測性』の蓄積」の成果を御破算にした。それは、対米関係を含む日本の対外姿勢における「不可測性」を露わにした結果、 尖閣諸島沖中国漁船衝突事件やドミトリー・A・メドヴェージェフ(ロシア大統領)の北方領土強行訪問に際して、それぞれ中国やロシアの挑発的な対日行動を誘い込んだ。

 翻って、菅直人内閣が鳩山前内閣の路線を修正しようとしているのは、間違いないであろう。具体的にいえば、前原誠司(外務大臣)を軸にして、対米関係の修復を図ろうとする姿勢は、確かに伝わってくる。北朝鮮による韓国・延坪島砲撃に促された体裁で起動した韓国との安全保障上の提携もまた、対米関係の修復と連動したものであるといえよう。また、前原は、鳩山前内閣期に「政治主導」の証左として外務省顧問を退任させた谷内正太郎(元外務次官)、林貞行(元外務次官)、加藤良三(前駐米大使)を含めて、宮本雄二(前駐中大使)と都甲岳洋(元駐露大使)を外務省顧問に起用した。この選択は、ただ単に「脱官僚」路線の修正として語られるべきものではなく、対米関係における「可測性」の回復に向けた対応として説明されるべきであろう。ただし、こうした菅内閣の修正は、実際には、日本を取り巻く情勢の推移には追いついていない嫌いがあった。

 日本と中国は、たとえ隣接しているとはいっても、その国情において重なり合わぬところが多々ある。たとえば

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