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中国の「ステルス戦闘機」に過剰反応する必要はない

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 1月11日、中国政府は現在開発中とされる戦闘機、殲20(J-20)を公開した。このタイミングはゲーツ米国防長官の訪中に合わせたのではないかと、多くのメディアが推測している。恐らくそれも大きな理由だろう。だが理由はそれだけではないずだ。

 中国の仮想敵国であるインドは、昨年すでに、ロシアが開発中のステルス戦闘機、T-50をベースに次世代戦闘機を共同開発することを発表している。J-20の公開は、これも意識したものだろう。

 だが、中国のステルス機開発能力は極めて低い。今回の試作機は単なるプロパガンダ用で、中国の技術レベルを知っている米当局が大騒ぎすることはないだろう。恐らく中国当局は「ステルス戦闘機」という言葉に脊髄反射する各国のメディアが過剰に騒いで宣伝してくれるアナウンス効果を期待し、タイミングを計って公開した。筆者はそのように分析している。

 恐らく防衛省、特に空自や一部の「防衛通」を自称する議員たちは、この中華ステルス戦闘機に過剰反応し、だから空自のFX(次期戦闘機)はステルス戦闘機であるF-35を導入すべきだと強く主張するだろう。だが、それこそ中国のプロパガンダに踊らされた振る舞いに他ならない。

 確かに、中国の戦闘機開発能力は1990年代初頭に比べたら格段に向上している。だが、だからといってステルス機が開発できるレベルにあるとは到底言えない。結論を先に言えば、中国はあと20年かかっても米軍のF-22並みのステルス戦闘機を開発し、それを運用することは不可能だ。

 中国は、ライセンス生産していたロシアのSu-27SK戦闘機を違法コピーし、これをJ-20の前身J-11Bとして採用したが、機体振動などが酷く、海軍が受け取りを拒否している。既存機のデッドコピーですらこの有様である。

 中国には、まともなアビオニクス(航空機用の電子機器)や戦闘機用のジェットエンジンを独力で開発する力はない。だから、当面は外国の支援を仰がなければならない。サブシステムなどの多くは、いまだに外国製だし、基礎研究も決定的に遅れている。

 一方で、ロシアは中国の最大の兵器供給国である。中国は、Su-27SKのコピー事件の時には「以後このようなことを起こさない」という協定をロシアと結んだが、その後も艦載機Su-33のコピーを行った。また、中国の国産戦闘機FC-1やJ-10は、途上国ではロシア戦闘機の競合相手になっている。このためロシアは、中国への新たな航空技術移転に極めて慎重になっており、新型戦闘機の開発でもロシアの支援は期待できない。

 その他の中国への技術移転の主ソースは、ウクライナとイスラエルだ。ウクライナはSu-33の実機や空母着艦訓練などのノウハウを中国に提供してきた。ウクライナにはジェット戦闘機用のエンジン工場はないが、整備工場が存在しており、中国はこの向上が持っているノウハウを自国のエンジン開発に利用してきた。また、空母の建造でも多数のウクライナ人技術者や工員が招聘されている。だが、昨年ウクライナに親露派の政権が誕生しており、今後ウクライナからの技術導入が細る可能性が高い。

 イスラエルに関しては、米国が同国の中国に対する軍事技術、特に米国オリジンの技術の移転を厳しく規制しているので、極めて高度な技術移転を行うことは容易ではない。

 ステルス機は、非常に緻密な技術とノウハウの塊である。外見を真似すれば似たものができるわけでなない。特に既存の戦闘機よりもアビオニクスやシステム統合、ソフトウェアの担う役割が大きいが、中国にはそのような技術が大きく欠けている。

 実際、ロシアのステルス技術ですら米国からは大きく遅れており、さらに技術的に遅れている中国に、まともなステルス機を開発する能力はない。ボーイング社の某副社長は筆者に「中国はステルス技術で20年かかっても米国に追いつけない」と筆者に言い切ったが、それは事実だろう。むしろ技術的には、実証機「心神」を開発している我が国の方が進んでいる。

 また、

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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