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次期戦闘機(FX)に「ステルス」は不要だ

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 前回述べたように(1月16日付「中国の『ステルス戦闘機』に過剰反応する必要はない」)、中国が発表したステルス戦闘機に過剰反応した空自や軍事知識に無知な一部の政治家は、「唯一導入可能な」F-35の導入を叫ぶだろう。だが、筆者から見ればそれこそ中国の思う壺である。

 世間では「ステルス戦闘機こそが第5世代の戦闘機で無敵である」との認識が強い。例えば、プロペラ式のレシプロエンジンの戦闘機からジェット戦闘機に変わったようなパラダイム・シフトであると理解されている。

 だが、それは誤りである。ステルス戦闘機は青い鳥でもシルバー・ブレット(銀の弾。転じて「特効薬」の意)でもない。ジェット戦闘機と同時期に登場し、ジェット機よりもむしろ有望視されていたロケット戦闘機はあっという間に廃れた。

 また1960年代には、21世紀はSST(超音速旅客機)が主流になるといわれたが、現実に商業化されたSSTは16機のコンコルドだけだった。いまだ旅客機の主流は亜音速機である。新しい技術が必ずしも次世代のスタンダードになるとは限らない。

 ステルス機がレーダーで探知しにくいといっても探知がまったく不可能ではない。現用機より難しいというだけだ。例えば赤外線探知装置や電子戦機などを組み合わせて使用すれば、ステルス機の位置の探知は可能である。また、特に下面や後方などは前面に比べて探知されやすい。中国が一定のステルス戦闘機の運用能力を確保するであろう20年後ぐらい先であれば、さらなる探知技術が開発されているだろう。

 ステルス戦闘機には、他にも欠点がある。まず、高度なステルス機能を獲得するために、兵装や燃料搭載料などをトレードオフで犠牲にしている。多くの兵装を搭載しようと思えば機外に搭載するしかなく、そうならばステルス機能は大きく減退し、「普通の戦闘機」になる。

 しかも、ステルス戦闘機の運用は、前回述べたように非常に高価で高度なネットワーク基盤あってのことであり、こうしたネットワーク基盤が不十分であれば、多額の費用をかけてステルス戦闘機を調達しても宝の持ち腐れになる。

 自衛隊のネットワーク化は途についたばかりで、米軍に比べたら大きく遅れている。現状でステルス戦闘機を導入しても持てあますだけだ。

 本来、ステルス戦闘機は相手が優勢な敵地奥深くに侵入し、空中戦や地上攻撃を行うための機体である。ある意味、「切り込み隊長」的な攻撃的な役割を担う特殊な機体なのである。

 これに対して我が国の場合、戦闘機は防空・迎撃が主たる任務である。先手を打つのは常に敵側であるし、常に多数の迎撃機を該当空域に上げておくことはできないし、全機で迎撃に向かうことができるわけでもない。このため、より早く確実に敵機を探知し、しかるべき戦闘機部隊をなるべく多く該当空域に向かわせることができる体制を維持しておく必要がある。また迎撃機は、より多くのミサイルを搭載した方が有利である。この点ではむしろ既存機が有利である。

 こうした戦闘機部隊は、イージス艦や陸上の対空ミサイルと組み合わせて使う必要がある。また、味方戦闘機の位置を敵に知られないよう電子妨害などを行う必要もある。そのためにも戦闘機のネットワーク化が必要である。

 そのような任務に必ずしもステルス機は必要ない。むしろネットワーク基盤の整備や既存戦闘機のネットワーク化などの近代化を優先したほうが遙かに安いコストで、強固な防空体制の構築が可能となる。

 空自は、FX(次期戦闘機)として米空軍と同じF-22という最先端の「玩具」を欲しがった。が、米国は秘密保持のために売ってくれなかった。米国が自国の航空優勢確保のためにF-22を海外に売らないことは、早い段階から誰が見ても明らかだった。ところが空自は可能性もないのに、諦めきれずにズルズルとFX選定を引き延ばした。

 そもそもF-22は

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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