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 東シナ海の波は高い。尖閣諸島沖の漁船衝突事件や日中中間線近くでの強引なガス田開発など、中国はなぜ東シナ海で独善的な行動を取るのであろうか。この問題について考えるためには、海が果たす3つの役割に目を向ける必要がある。まず、海には「公道」としてヒトやモノ、アイデアを運ぶ役割がある。また、生物・鉱物・エネルギー「資源」の供給源という役割がある。そして、「障壁」として外敵との接触を阻む役割もある。東シナ海の問題は、これら3つの役割が複雑に絡み合った問題であるといえよう。

 古くから水上交通の要衝として知られる長江は、チベット高原を水源とし、有名な赤壁の戦いが行われた華中を抜け、東シナ海に注いでいる。このアジア最長の川は、今日では成都、武漢、重慶という重工業都市と南京、上海という商業都市を結び、「世界の工場」となった中国を世界市場へとつないでいる。つまり、東シナ海は中国のシーレーンの起点なのである。拡大を続ける日中の貿易もこの東シナ海を通じて行われており、日中両国は共に公道としての東シナ海から利益を得ている。

 東シナ海の漁業は中国13億人にとって貴重なタンパク源を確保し、農村部の余剰人口に雇用を創出している。また、東シナ海の石油・ガス資源は、中国沿岸部への電力供給の安定化に寄与することが期待されている。日中両国はすでに漁業協定に基づいて漁業資源の共同管理を行っているし、日中中間線付近のガス田の共同開発にも合意している。東シナ海の資源の共同管理は、正しい方向性である。しかし、尖閣諸島の領有権や東シナ海全体に及ぶ管轄権を主張するなど、中国が国際法に基づかない行動を取っていることが、東シナ海の緊張を高めている。

 なぜ、中国は東シナ海で過剰な管轄権を主張するのであろうか。中国からみれば、東シナ海はアメリカと中国の戦略的緩衝海域として機能している。地域での影響力増大を目指す中国にとって、日本列島、特に南西諸島はアメリカに対する防衛線であるとともに、自らの海洋進出を妨げる障壁でもある。日本列島には米軍が前方展開しているため、台湾を統一しない限り中国は東シナ海に封じ込められていることになる。このため、中国は軍事力を近代化して、西太平洋における米軍、特に圧倒的攻撃力を誇る空母の行動の自由を制限しようとしている。

 中国の海洋進出は核戦略とも密接に関連している。中国は、南シナ海に浮かぶ海南島を拠点に戦略ミサイル原子力潜水艦を配備している。中国の核戦略上、この戦略ミサイル原潜が密かに外洋に出てアメリカ本土をその射程に収めておくことが極めて重要だが、南シナ海や東シナ海は比較的水深が浅く敵に探知される可能性が高いため、南西諸島を越えた海域を確保しなくてはならない。中国の海洋進出には、戦略ミサイル原潜の防衛という重要な目的があるのである。

 中国が国内法に尖閣諸島を自らの領土と明記し、日中中間線を認めずに東シナ海全体の管轄権を主張している背景には、資源の確保と同時に東シナ海を支配して外敵の接近を阻む障壁とする地政学上の要請があることを忘れてはならない。海を障壁とみなすのは大陸国家の特徴である。中国が海洋自由の原則を尊重する海洋国家へと脱皮しない限り、東シナ海の問題が根本的に解決されることはないだろう。

 アジア太平洋地域の安定と繁栄は

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筆者

小谷哲男

小谷哲男(こたに・てつお) 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

法政大学非常勤講師。1973年、兵庫生まれ大阪育ち。専門は日米同盟と海洋安全保障。日本国際問題研究所研究員及び平和・安全保障研究所研究委員を兼務。同志社大学法学研究科博士課程満期退学。米国ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。平成15年度防衛庁長官賞受賞。平和・安全保障研究所・安全保障研究奨学プログラム13期生。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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