小北清人
2011年01月27日
世界で最も静かな地下鉄は「日本と北朝鮮」なのだそうである。
現地で何度か経験したことだが、北朝鮮の地下鉄はとにかく静かだ。息苦しいほど。車両ごとに金日成氏と金正日氏の肖像画が掛けられ、乗客に睨みをきかせている。乗客はわれわれ外国人に話しかけられるのをまるで恐れているかのようで、こちらがいたたまれなくなるほどである。
平壌から脱北し、いま韓国に住む筆者の友人は、自分が金正日体制にどれほど嫌気が差しているかを親友に話すまでに、5年かかったという。その親友が、本当に信用するに値する人間か、自分の話を当局に密告しはしないか、それを見定めるのに5年かかったのだ。
「隣人を簡単に信じてはいけない社会」では、人々は話しながら歩いたりはしない。黙々とわき目もふらずに歩く。隣の他人がどんな人間かわからないからだ。
日本はもちろん北朝鮮のような恐怖政治の国ではない。
ではなぜ地下鉄の中があんなに静かなのか。「人間同士の濃い関わりを厭う社会」だからだ。気が付くと、そういう空気が当たり前になっていたのである。
必要以上に関わるのはウザい。後腐れがあるのは面倒だ。深入りしすぎると自分の方が傷つく。傷つかず、面倒なことに巻き込まれない範囲で人と付き合う。それはそれで安定していて、安楽で、落ち着けるのである。生活に困らない限り、これは結構、ラクチンで気楽なものなのだ。
「日本より情の濃い」韓国から来て、いま東京に住む韓国人の友人は話す。「日本で長く暮らして、たまに韓国に帰ると、とても疲れる。相手が自分の内面までズカズカ立ち入ってくる感じで、ウンザリさせられる。そう思うとき、自分は日本人になったなと感じる。韓国の親しい友からも、お前、日本人になったな、といわれる」
そして、こうも言う。
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