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 チュニジアで1月14日にベンアリー政権が倒れ、連鎖反応的にアラブ諸国で反体制デモが頻発している。アルジェリア、ヨルダン、イエメン、リビアといった国で抗議行動が報じられる中、1月25日、最も注目される地域大国エジプトの各地で大規模なデモが行われた。チュニジア革命の口火を切った失業者の焼身自殺という新たな抗議の形態も模倣され、モーリタニア、アルジェリア、エジプト、さらにサウジアラビアで確認されている。

 それだけではない。アラブ諸国では、政権を揺るがす各種の事象が矢継ぎ早に進展している。レバノンでは1月12日に親シリアのシーア派武装組織ヒズブッラー(ヒズボラ)が親欧米派のハリーリー首班の内閣を崩壊させ、多数派形成に成功して25日にはミカーティー新首相の指名を得た。ヒズブッラー主導の内閣が組閣されれば、国内の内戦の危機をはらみつつ、米国をはじめ国際社会と対峙していくことになる。

 スーダンでは1月9日に行われた南部の分離独立をめぐる住民投票で、独立賛成票が圧倒的多数を占めると見られ、国家分割が具体化する。

 パレスチナについては、アラビア語衛星放送アル・ジャジーラがイスラエルとの和平交渉の舞台裏の詳細なやり取りを記した文書を入手し、1月23日から26日にかけて順次公開した。そこではPLO指導部とパレスチナ自治政府が表面上は謳い上げてきたパレスチナ難民の権利やパレスチナ国家の領土を大幅に譲歩する案を交渉相手に示していたことが暴露されている。

 これらの事象に通底するのは、「ガバナンスの危機」である。デモが連鎖している諸国は、主に、1950年代~60年代を中心にアラブ世界で成立した、アラブ社会主義を掲げた共和制の諸国である。半世紀の間に、チュニジアだけでなく、エジプト、シリア、リビア、イエメン(さらにサダム・フセイン政権時代のイラク)など、アラブの共和制諸国は大統領職が終身化し、その多くは世襲化を進め、「共和君主制」「大統領王朝」とでも形容すべき、矛盾した体制に変容している。また、1980年代以降から次第に社会主義的政策を放棄して行き、2000年代後半には本格的に自由化政策を進め、当初の理念と現実との間に乖離・矛盾が著しい。かつて国民に約束した、最低限の生活を保障する政権の使命を果たせていない。

 アラブ社会主義の諸体制が半世紀を過ぎて耐用年数を越し、当初の理念とは正反対の内実を持つ矛盾を抱えた体制と化し、国民の支持と統治能力を低下させている。そのことが情報革命の進展によって露わになっているというのが、現在進行している事象だろう。

 ヨルダンとサウジアラビアでもデモや抗議行動が表面化している。両国は ・・・ログインして読む
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筆者

池内恵

池内恵(いけうち・さとし) 池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)

東京大学先端科学技術研究センター准教授。専門はイスラム政治思想、中東地域研究。1973年生まれ。国際日本文化研究センター准教授などを経て現職。2002年、『現代アラブの社会思想』で大佛次郎論壇賞、09年、『イスラーム世界の論じ方』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『中東 危機の震源を読む』『アラブ政治の今を読む』『書物の運命』(毎日書評賞)など。「WEDGE Infinity」「フォーサイト」でも連載中。

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