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店舗・事務所の出店時に必要な保証金が過大すぎる

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 多額の税金を投入することも、減税もすることなく、中小企業、特に小売りや飲食業を元気し、起業を促す妙案がある。筆者はジャーナリストであるが、同時に起業家であり、貿易や小売業も営んでいる。その現場の人間としての提案である。

 それは、店舗や事務所のテナントが払う高額な保証金を見直し、大幅に削減することだ。一般にこれらの保証金は、家賃の10~20カ月は当たり前、ショッピングセンターなどの商業施設などでは40~50カ月にものぼる。最近はデフレのため若干下がってはいるが、依然高水準である。統計がないのでハッキリは分からないが、日本全体ではこれらの保証金は恐らく兆円単位の金額になるだろう。

 我が国の法人の9割以上が中小企業である。その多くは小売店や飲食店、サービス業だ。保証金が数カ月程度になれば恐らく数兆円以上の資金が中小企業に流れ込んだのと同じか、それ以上の経済効果が期待できる。政府が金融機関に金を貸すために利子補給すれば公的資金が必要となるだろうが、これならば必要ない。大変効率のいい中小企業支援、起業支援になるだろう。

 多額の保証金は、零細企業、特に起業したばかりの企業にとっては大きな負担だ。例えば飲食店を起こそうとしよう。店舗の家賃が月30万円、事務所の家賃が月15万円としよう。共に保証金が20カ月分必要であれば、それだけで900万円の負担となる。仮に資本金が1千万円ならば、その9割が保証金で拘束されてしまう。これでは最初から資金繰りが厳しくなるのはいうまでもない。しかも後述するが、こうした保証金は立ち退いた後に戻ってこない危険性が常にある。

 また、ショッピングセンターは保証金が高額であるため、体力がない中小企業の出店は極めてハードルが高い。家賃が30万円で、60カ月の保証金ならば1800万円を出店時に用意しなければならない。町場の飲食店や雑貨屋が右から左に用意できる金額ではない。結局、全国どこでも同じ大手企業のチェーン店ばかりとなり、店舗構成も画一的になる。当然、消費者にとっては魅力が薄くなるし、地場産業の発展にもつながらない。高額な保証金は外国企業参入の妨げにもなっており、外国からの投資が増えない一因でもあろう。

 サラリーマンから起業する場合、多くは数百万円の自己資金を用意するケースが多いが、家賃と保証金だけで自己資金を超えてしまう。いうまでもないが、起業には家賃以外に店舗の内装代や商品の仕入れなど各種の初期投資が必要であり、保証金の負担だけが突出していては順調な起業や成長は望めない。新しい企業が風呂などが付き、事務所用にとしては使い勝手の悪いマンションの一室などを借りて起業することが多いが、その理由として、こうした保証金の過大な負担が挙げられる。マンションのような住居を借りれば数カ月分の保証金で済むからだ。

 保証金に払う金額が手元に残れば相当資金繰りが楽になる。黒字になるまで耐えられる期間は大幅に伸びるし、金融機関からの借り入れも減らせるから、利子の支払いも減らせる。また、より優秀な人材を雇うこともできる。レストランなら食材にかけるコストを引き上げ、より美味しい食事を提供することも可能となるだろう。

 我が国では金融機関は経営者に無制限の個人保証を求める。保証金だけでも新規ビジネス立ち上げのリスクが高い上に、失敗すれば個人財産をすべて召し上げられてしまうのだ。評論家や役人は気軽に起業を勧めるが、現状で起業をするのは手足を縛ってプールに突き落とされるようなものである。日本では、よほどの物好きしか起業はしないといっても過言ではない。

 一般に、新規のビジネスは3年で9割が淘汰されるというが、この過大な保証金がなければ、より多くの新しいビジネスが生き残ることができるだろう。またサービス業の従業員は一般に所得が低い傾向にあるが、これも緩和されるだろう。

 日本の輸出額はGDP(国民総生産)の15%程度、これに対して個人消費は55%を占める。その個人消費で多くの中小零細企業がメシを喰っている。またその経営者や従業員は消費者でもある。中小企業が元気になり、雇用が増えれば内需は拡大する。

 だが、こうした起業や中小企業の振興策、内需拡大策は、現状では不可能だ。その理由はズバリ、我が国が法治国家ではないからだ。

 現在の法律では、賃貸料を払わないテナントがいても大家はそのテナントを排除する有効な手段がない。裁判をすると多額の訴訟費用がかかる。やっと判決が出ても、それを履行しないテナントへの罰則もない。テナントが夜逃げした場合も同じだ。大家はテナントの同意なく、商品を排除したり、内装を替えたりできない。そうするためには、裁判所の命令が必要だ。強制執行が可能になったとしても、その費用は大家持ちだ。しかも、排除した商品などは倉庫を借りて保管しなければならない。これまたカネがかかる。つまり店舗経営は大家にとってはリスクが大きいビジネスなのだ。

 反面、賃貸スペースでの店舗経営はテナントにとっても実はリスクが大きい。保証金は銀行など第三者に預けられる供託金ではなく、大家が直接管理している。このため大家が破綻したり、供託金を使い込んだりしても返って来ない恐れが高い。裁判を起こしてもこれまた多額の費用と時間がかかるし、有利な判決が出ても、相手が金融機関の口座を移してしまえば、差し押さえが出来ない。相手の口座情報は原告が特定しなければならない。

 つまり、現在の商業賃貸契約は大家、テナント双方にとって、リスクと負担が大きい。筆者は少なくとも先進国で、このような「無法」が放置されている国を知らない。

 解決法としては、まず、

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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