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「パイレーツ・オブ・アデンワン」の深層:海賊が海賊になる理由

小谷哲男

小谷哲男 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」や漫画『ワンピース』の大ヒットにみられるように、「海賊」という生き方は多くの少年たちに夢とロマンを与え、人々の心を魅了してきた。

 しかし、現実世界の海賊の姿はロマンとはほぼ遠く、「人類共通の敵」である。21世紀の海賊は訓練を受けた貧しい漁民で、衛星電話を片手にGPS装備の高速船を操り、自動小銃、対戦車ロケット砲等で武装し、民間船をハイジャックしては、莫大な身代金を要求する。

 海賊は航行の自由と船員の命を脅かすだけでなく、貨物を奪い、身代金を取り、拡大するグローバル経済を支える海運のコストを高め、世界経済に毎年70億ないし120億ドルの損害を与えている。今この瞬間も18カ国の30隻の船舶、700人の船員が海賊に拘束されたままである。人質の解放には平均7カ月かかり、解放後も多くの船員が心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむことになる。

 1月18日に国際商工会議所(ICC)の国際海事局(IBM)が出した年次報告書によると、2010年に世界で発生した海賊事案は445件で、そのうち219件がソマリア周辺海域に集中している。同海域では49隻がハイジャックされ、1016人の船員が人質となった。日米欧等20数カ国が艦艇と哨戒機を派遣してパトロールしているため、インド洋北西のアラビア半島とアフリカに挟まれたアデン湾での発生件数は53件と前年より半減してはいるが、代わりに「パイレーツ・オブ・アデンワン」は、東はインド西岸、南はマダガスカル島近海まで行動範囲を広げている。

 海賊は、「ローリスク・ハイリターン」のドル箱ビジネスである。船のハイジャックは荷物検査の厳しい飛行機のハイジャックより遙かに容易で、ソマリアの海賊に支払われている身代金は跳ね上がり、1件当たり540万ドルともいわれている。ソマリア北東部のプントランド州では身代金で高層ビルが建ち、海賊達は高級車を乗り回し、女性達の羨望の的になっているという。町全体が海賊ビジネスの恩恵を被っているのである。

 1月21日、韓国海軍がアデン湾で海賊にハイジャックされた自国船を武力で解放、13人の海賊のうち8人を射殺し、5人を拘束した。韓国メディアはこれを大々的に伝え、「今後海賊が韓国船を狙うことはない」とこの「アデン湾の黎明」作戦の成功を称えているが、大金に目のくらんだ海賊をこの程度で抑止できると考えるのは早計であろう。むしろ、海賊と各国海軍の間で暴力のエスカレーションが始まっているとみるべきで、実際に海賊が韓国船への報復を宣言している。これによって被害を受けるのは船員である。今回の作戦でも韓国人船長が撃たれて負傷している。

 海賊対策の鍵は、「海」ではなく「陸」にあるといわれる。ソマリアが海賊の巣窟となったのは取り締まりを行うべき政府が崩壊したからであるが、根源的原因として貧困問題がある。このため、

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筆者

小谷哲男

小谷哲男(こたに・てつお) 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

法政大学非常勤講師。1973年、兵庫生まれ大阪育ち。専門は日米同盟と海洋安全保障。日本国際問題研究所研究員及び平和・安全保障研究所研究委員を兼務。同志社大学法学研究科博士課程満期退学。米国ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。平成15年度防衛庁長官賞受賞。平和・安全保障研究所・安全保障研究奨学プログラム13期生。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

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