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二元制を改革し、将来的には議院内閣制を

脇阪紀行

脇阪紀行 大阪大学未来共生プログラム特任教授(メディア論、EU、未来共生学)

 首長と議会議員を住民が直接投票で選び、お互いに活動をチェックしあう。この二元代表制は、民意を反映するという点で一元代表制より優れた民主制度だと考えがちだ。しかし地方議会の現状、住民の信頼度の低さを見れば、二元代表制が期待された機能を発揮していないのは明らかだ。議会不信を解消するためには、予算編成への議会関与といった二元代表制の改革を進めるべきだ。将来的には、一元制の議院内閣制を軸に、各自治体が自らにあったシステムを選択できるようにすべきではないか。

◇欧米では一元代表制が主流◇

 日本では二元代表制が当たり前と思われているが、今日、欧米先進国の地方自治では一元代表制が主流だ。

 北欧諸国では、議会が「市長」を決める議院内閣制に近い形が基本だ。つまり、公選の首長はおらず、議会選挙で第一党になった政党の代表が議会多数派によって首長に選ばれる。議会は、行政を担う各委員会にも議員を送り、政策を決め、公務員がそれを実践していく。

 先に来日したスウェーデン第3の都市マルメ市(人口70万人)のリョバル市長の話では、マルメ市議会の61人の議員のうち10人ほどが行政の仕事も担っている。彼らは決まった報酬をもらうが、それ以外の一般議員は、自分の仕事を持ちながらの兼業で、議会の仕事をする時に日当をもらい議員活動をしている。リョバル氏は第一党の社会民主党の地域代表でもある。

 リョバル市長は、「議員の報酬カットや定数削減を首長が言うのは、欧州では難しい」と苦笑していたが、それは日本と違って、議会がちゃんと機能しているからだ。政党は議会を舞台に政策を競い合い、住民は議会を通して教育内容や税金の水準を決めていく。

 議会中心の地方自治の伝統は英国でもある。もともと議会が各委員会を通じて行政の責任をおってきた。それを2000年の地方自治法改正で、議決権と執行権の分担を明確にするため、(1)議会から選ばれたリーダーが内閣を組織する「議院内閣制」(2)公選首長が議員の中から閣僚を任命する「公選首長・内閣型」(3)公選首長と行政専門家が協働する「シティマネージャー型」の3つの選択肢から選ぶように地方政府に義務づけた。その結果、大半が(1)の議院内閣制を選んだ。首長の権限強化への懸念があったからだが、そこにはやはり発達した住民自治の実績と自信がある。

◇地方議会の圧殺か◇

 こうした違いを見れば、欧州の制度をすぐに日本に導入するよりも、日本の住民自治が徐々に成熟するまで待ってから導入するのが得策という考えもあるだろう。

 しかし、地方統一選前のいま起きているのは、住民自治の成熟というより、むしろ地方議会の抑圧と圧殺をめざす流れだ。名古屋市や鹿児島県阿久根市の市長の訴えを聞いていると、議会への不信と嫌悪が強い。そこに議会との対話や権限拡大を通じて、民主主義を強めようという発想は見えにくい。

 地方議会が機能不全に陥っていることは明らかだ。議員報酬のカットや政務調査費の公開請求を求める動きは各地で起きている。首長や官僚の「根回し」で政策プロセスはまったく外部にわからない。ある県議会事務局の元職員に聞くと、議会討論での質問原稿を職員が代筆するのは常態化しているという。政策の勉強より、自分の地元への利益誘導に汗を流す議員が多いことを、多くの有権者が気づいてしまっている。

 議会の再生という点で注目したいのは、大阪府の橋下知事が提唱する「議会内閣制」構想だ。知事の公選制を維持しつつ、議会にも予算編成にかかわってもらおうという構想を実現するために、橋下氏は大阪維新の会を旗揚げした。これについて片山総務相は先の日本記者クラブの会見で、大阪維新の会が議会の多数派を取れば、「結果として、根回し政治が今までやって来たことと同じことが起きるのではないか」と批判したが、筆者には必ずしもそう思えない。

 「分権化が進めば予算づくりを首長だけではできない。議会にも責任を持ってもらうのは当然」「チェック&バランスは健全な野党がいるかどうかがカギ」。こうした橋下氏の反論は耳を傾ける内容を含んでいるように思う。もちろん、大阪市と大阪府との怨念の対立構造がこれで解決するのか。行政職になった議員を知事は自分の子分にしてしまうのではないかといった懸念は当然ある。しかし議会の機能を再生させ、将来の国政を担う政治家を育成するための方策はもっと真剣に論議されていいのではないか。

◇議会活性化へ三つの「か」◇

 結論を急ごう。

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