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防衛省の装備調達改革と「商社悪玉論」の欺瞞

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 2007年、防衛関連の専門商社・山田洋行と守屋元防衛事務次官らを巻き込んだ防衛スキャンダルが巻き起こった。このとき「防衛商社悪玉論」がメディアを賑わせた。

 このため防衛省は調達改革を行った。だが、その多くは単なる外向けのパフォーマンスに過ぎなかった。むしろ装備調達の不透明や煩雑さは増し、状況は悪くなっている。これでは、装備調達のコスト削減が進まないのは当然だろう。

「調達改革」によって現在、海外製の装備調達にかかわる防衛商社は、表向き非常識なぐらいコミッション(手数料)を下げられている。総額の規模にもよるが、数パーセント~0.数パーセントだ。これではビジネスとして成立しない。

 実はこれには裏があって、実際はそれとは別に総額の2割程度のコミッションを商社がメーカーから受け取れるようになっている。そのメーカーの代理店業務のフィーとして間接的に受け取とるならばOKなのだ。

 だが、1機100億円の戦闘機1機ごとに20億円のコミッションをメーカーから直接受け取ると「不当利益」として処罰される。

 そのため、こうした本来は存在しないはずのメーカーからのコミッションも、最大でも価格の2割程度に収めるように、という圧力が防衛省からかかっているのが現状である。

 本来存在しないコミッションに上限があるのは不思議な話だ。こうした構図は茶番以外の何物でもないのだが、実際に正直に前者の形で取引を行った防衛商社は課徴金を課せられ、報道もされている。だが、後者のような裏の仕組みは、メディアではこれまで報道されてこなかった。

 そもそも防衛省の毎年の装備調達費用、約1.7兆円のうち、輸入品は300億円程度に過ぎない。つまり、大半を占めているのは国内調達品だ。装備調達改革の本丸は国内調達なのだ。ところが、先の調達改革では、この国内調達には何らメスが入らなかった。

 海外調達については、07年の山田洋行のスキャンダル当時、商社など中抜きすればいいという主張がメディアでも見かけた。しかし、防衛商社は単なるブローカーでも輸入代行をしているだけでもない。防衛分野のような極めて狭い範囲の商品を扱う専門商社は、取り扱う商品すべてが売れるわけではなく、専門的な商品情報をメーカーや顧客(防衛省)とやりとりしなければならない点でも、単なる輸入代行業者ではない。限られた販売先、つまり防衛省への相応の営業経費もかかる。

 また、防衛省の場合、代金の支払いは納入後になるが、海外メーカーに発注する場合、代金は先払いがほとんどだ。つまり、国から代金が支払われるまでの間の金利負担も必要となる。

 さらに、海外メーカーの事情で予定よりも納期が遅れたりすれば、少なくない遅延金が発生する場合もある。外国の企業は日本企業と違って、納期を間に合わせるために工員が総出で徹夜しても作業を完了させる、ということはない。防衛商社は大きなリスクを負って商売しているのだ。

 先のスキャンダルのときはこのような説明がなされず、防衛商社だけが暴利をむさぼっているかのような報道が多くみられた。

 防衛商社は、本来、防衛省がこなすべき仕事を代行している部分も多い。防衛省の調達関連の人員は欧米に比べて1桁少ないため、輸入の実務に詳しい人間は極めて少なく、商社を中抜きすると業務はパンクする。ある意味、防衛省は商社に業務をアウトソーシングしていると言える。

 納税者の立場から見れば、防衛商社のコミッションは低いにこしたことはない。だが我が国の防衛装備品のコミッションは、ある程度高くないと成立しない。それは下記に述べるような防衛省の体質に問題があるからだ。

 第一に意思決定が遅いこと。米国や韓国なら担当者に権限があり、即座に発注できるようなものでも調達決定まで数年はかかる。その間の営業経費がかかるのはいうまでもない。筆者は陸自の装備で調達決定までに10年かかった例を知っている。もし10年かけて採用されなかった場合、人件費や営業経費は大損となる。その分をコストとして価格に上乗せせざるを得ない。

 第二に、防衛省は海外の最新兵器事情について、まともな情報を持っていないために、的はずれな要求をすることがある。これもコストを押し上げる要因になっている。予算1700億円の技術研究本部ですら、海外の見本市やコンファレンスの視察の予算を100万円に満たない金額しか用意していない。これは、筆者個人の年間取材費以下の金額だ。当然、「防衛省の常識は世界の非常識」というケースが数多く生じる。

 具体的には、大して必要もない、あるいは不要な機能を追加しろと要求する。実際にその機能を付加した日本専用型が開発されるまでいかなくとも、メーカーも商社も振り回されることになる。

 しかも防衛省は天災などで納品が遅れても、免責とせずに遅延金を要求したりする。これまたコストを押し上げる要因になっている。また電話やメール、宅急便で済む用事なのに担当者を呼びつけることもしばしばだ。東京の商社の人間が北海道まで一泊の出張を行えば、人件費を含めて10万円を越える経費がかかる。

 第三に、年度当たりの調達数が少ない。例えば100個必要な装備を1年に2~3個ずつ、20年ほどかけて調達するのと、100個を1回に輸入するのとでは、単価も手数料もまったく異なってくる。むろん、通関や輸入の手間も何十倍も違う。

 そもそも総数をいつまでに調達するといった契約もない上、万が一、翌年に予算が通らなければ売り上げはまったく立たない。諸外国では一般に調達数と期間、総額を契約してから調達が開始される。これならば事業計画が立て安い。攻撃ヘリAH-64Dアパッチの調達では62機の調達が13機で終わる。だが防衛省は初度費の支払いを拒否したので、裁判になった。62機のつもりで案分した経費が13機で終われば儲けはでない。

 つまり防衛省の調達方式では事業計画が立たない。防衛商社は民間企業だから、当然リスクを高く見ざるを得ない。ところが防衛省には時間や人件費がコストであるという概念がない。

 第四に、

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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