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BBCが展開する「ワールド・ウェブロンザ(WEBRONZA)」

川村陶子

川村陶子 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

 BBCといえば、英国国内放送のテレビコメディ番組で二重被爆者の山口彊さんが「世界一運の悪い男」として取り上げられた問題が記憶に新しいが、国際放送分野では国境を超えた議論のプラットフォームを提供する先端的な試みを行っている。いわばウェブロンザのグローバル・マルチメディア版として注目したいのが、BBC国際放送の「ワールド・ハブ・ユア・セイ(World Have Your Say、以下WHYS)」だ。BBCワールドニュースの日本語サイトでは「あなたならどう思う?」という邦題で紹介されている。

 WHYSは、狭義には、BBC国際放送で2005年から提供されている50分間のラジオ番組である(一部テレビ放送されることもある)。しかし、その内容は、国際放送という名称から想像される、「国家機関による情報提供」(広報)とはかなり異なる。WHYSでは、BBCがそのときどきの旬なテーマを「お題」として提供し、電話、ブログ、ツイッター、フェイスブックなどあらゆる媒体を駆使して、世界中の一般視聴者や政治・社会的アクター、メディア関係者の間に「会話」を喚起する。最近NHKが「日本の、これから」という番組で、生放送中に留守番電話とツイッターで募った意見を紹介しているが、WHYSはこれをより定期的、大規模そしてグローバルに行うものと考えるとわかりやすいだろう。

 2月12日には、テレビのBBCニュースで、「どうなるムバラク退陣後?」と題したWHYS特番が編成された。最初にエジプト情勢のニュース映像が短く流れた後、カイロのデモ参加者女性とロンドンのエジプト人男性がライブ映像で、アレクサンドリアの男性が電話で、それぞれ今後の憲法改正や体制変革の方向性について意見を述べ合い、BBCアラビアの女性スタッフが現地の最新情報を報告する。後半では、エルサレムのブロガーがパレスチナ人の様子や中東全体への影響についてコメントする。英国人キャスターの司会でテンポ良く議論が進行する間、画面では世界各地から届くブログやフェイスブックへのコメントが続々と紹介される。「これは民衆革命だ」(イタリア)、「エジプトの皆さんおめでとう」(スリランカ)、「自由になったけど安定は?」(ザンビア)、「エジプトの皆さんは世界平和の鍵を握っている、賢く考えて」(ノルウェー)…「オランダ、トルコ、ナイジェリアから電話が入っています」という表示も現れる。セッションは放送時間終了ぎりぎりまで展開され、司会者が「皆さんご参加ありがとうございました」と締めくくった。

 番組はアドホックに進行し、結論もとくに示されない。ライブ映像や電話でコメントの順番を待っているが、紹介されないで終わる人も多そうだ。しかし、全体として、エジプトで今何が起こっているのか、中東の人たちが何を考えているのか、世界の人たちがこの状況をどのように見守り、今後に何を期待しているかが、番組という場に凝縮されて伝わってくるつくりになっている。

 WHYSは、上記のようなライブ報道的な内容だけでなく、さまざまなトピックを扱っている。中でも興味深いのが、世界の著名人を招き、視聴者からの質問を受け付けるセッションだ。2月1日にはBBCビルマ(注)の協力でアウンサン・スーチー氏が登場し、回線状態の悪い中、自国の政治や経済の展望、エジプト情勢、インドや中国との関係、ミャンマーでのBBCの役割などについてコメントした。番組参加者にはアフリカ出身の人たちが目立ち、民主化のあり方について熱心に尋ねていた。ウェブサイトには放送時間中にツイッターやフェースブック等で数十件の質問が寄せられたほか、放送終了後もブログに書き込みが続いた。これらのコメントは、ラジオ放送のクリップや放送内容の要約などとともに、WHYSのブログサイトで公開されている。

 ブログサイトでは、番組で放送されるトピック以外にも、WHYSのスタッフが日々異なる「お題」を出し、それに読者がコメントを寄せるディスカッションフォーラムが展開される。スタッフは必要な基本情報や関連する報道・コラム等へのリンクを提供し、ブログ読者はそれらを読んだ上で自分の意見をアップできる。フォーラムには内規(「ハウス・ルール」)が設定されており、他人を侮辱するなどの不適切なコメントは削除される。「お題」は世界各地の政治・社会・文化の多様なテーマにわたり、読者はWHYSブログサイトを見れば、世界で何がいま問題になっているか、それらの問題に対して各地の人たちが何を考えているか、関連の情報や論評とともに知ることができるようになっている。

 BBCによれば、WHYSのねらいは、「BBCが提供するプラットフォームにおいて、グローバルでオープンな会話を喚起すること」にあるという。インターネットやソーシャルメディアは、ときに権威主義社会で民衆革命を起こすほどの効果を持つようになったが、そこで交わされる情報や意見にとらえどころがなく、氾濫する情報のまとめや「結びつけ」が不足するという欠点もある。そうした状況の中で、WHYSは、放送や電話といった旧来の媒体と新しい電子媒体をとりまぜ、双方向の議論を喚起しながら、「いま、みんなが考えていること」を世界に伝える、新しいメディアのかたちをつくり出しつつある。 ・・・ログインして読む
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筆者

川村陶子

川村陶子(かわむら・ようこ) 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

成蹊大学文学部准教授。1998年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(国際関係論)。国際関係における文化・文化交流に関心を持ち、対外文化政策や国際交流活動、〈ひと〉の視点でみた国際関係をテーマに研究教育活動を行っている。共著に『日本の国際政治学』(有斐閣、2009年)など。

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