メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「ニュースにだまされるな!」ナショナリズムをとことん考える

朝日ニュースター「ニュースにだまされるな!」×WEBRONZA提携

金子 「ナショナリズム」は使い古された言葉ですが、そもそもナショナリズムとは何なのか。これは「辞書」であり「広辞苑」の大澤さんに説明してもらうとして、その前に、今回の意図を申し上げておくと、まず、ナショナリズムを普遍的に抽象的に議論しても面白くない。その一方で、日本の現状を冷静に考えてみると自分たちの「居場所」が分からなくなっています。日本は戦争に負けて以来、「米国についていけば大丈夫」ということでずっとやってきた。日本人の意識には、米国のあの物質的な豊かさに負けたという思いがあって、日本は国際的には中国を含む連合国に負けたのに、決して中国や韓国に負けたとは思っていない。米国に頼って米国を経済で追い越せば自分たちのナショナリズムは満たされてきました。古すぎて分からない人もいるかもしれませんが、力道山がルー・テーズをやっつけて観衆が喝采したのと同じです。戦争では負けたけれど経済で追い越したというのが80年代の高揚感を生みました。

うさぎ バブルのころには、確かにそういう感じがありました。

金子 ところが、米国が貿易赤字と財政赤字で苦しんで衰退し始めると、米国についていくだけでは許されず、どんどん要求されるようになった。小泉政権のときが典型的ですが、日米構造協議などといって、次々と米国にむしり取られるようになっていく。

 さらに、負けていなかったはずの中国や韓国、つまり人によっては「こんなやつら」と思っていた国々にも経済的に追い抜かれ始めています。そうして生まれた屈辱感や屈服感があるところに、尖閣や朝鮮半島の問題に火がつきました。米国に頼り、中国や韓国を軽蔑してアジア初の先進国だと誇っていた戦後日本のアイデンティティーそのものが壊れてしまった状況で、「私たちは何者なのか」「何を頼りに生きていけばいいのか」ということが見えにくくなっています。

 今回は一般論ではなく、そうした大きな流れの中でナショナリズムを考えなければいけないでしょう。過去にさかのぼりながら、さまざまなバックグラウンドを持ったゲストが集まって論じれば面白くなると思います。

うさぎ なるほど。今、この時代において日本人であるとはどういうことなのか、ということですね。

金子 最終的には、そういうことも考えざるを得ない。世界で起きていることを考えるときも、「日本はどこへ向かっていけばいいのか」ということが多少分かれば、だいぶ違って見えてくるはずです。でも、その前にやっぱり「辞書」が必要ですね(笑い)。

うさぎ まずは「ナショナリズムとは何か」について、「歩く広辞苑」の大澤さんにご説明いただきたいと思います。

大澤 分かりました。これから議論をするに当たって「歩く広辞苑」として(笑い)、何がナショナリズムかについて、最初に少しだけ勉強しておこうと思います。

 ナショナリズムの語源は、言うまでもなく「ネーション」です。日本語では「民族」「国民」と訳しますが、こうしたネーションに対して愛着を持ったり、それを尊重したりする態度や感情、思想をナショナリズムと言います。

拡大

 しかし、そもそもこの「ネーション」が何かということがとても難しい。「国民」や「ネーション」は普通の言葉ですが、簡単に言えば私たちのふるさと、故郷などとある種、似ているところがあります。ライフスタイルや文化が共通していることで感じる「ふるさと感覚」と言えますが、普通のふるさととすごく違うところが一つだけあります。それは、(限られた範囲の)直接的な人間関係を圧倒的に超えているということです。例えば先日、フィギュアスケートの浅田真央さんがトリプルアクセル(三回転半)を飛べるのかについて日本中の何千万人もの人が気にしました。ところが、よく考えてみると浅田さんと個人的に関係がある人はほとんどいない。つまり自分とは個人的に関係がないのに、ものすごく強い仲間意識や家族意識を持つというところが、ネーションの大きな特徴です。

 ネーションについて考える上でのポイントは他にもいくつかあります。まず、ネーションは学問的に考えると、非常に複雑で変わった概念です。少し分かりにくいのですが、ネーションは非常に広い広がりを持つけれども、逆に限られたものだとも言えます。つまり、全然知らない人も含めて仲間意識を持つという広がりがあるのに、自分のネーションを人類全体にまで拡大しようと思う人はいない。

 「そんなの当たり前だ」と思う人もいると思いますが、例えばネーションはよく宗教共同体と比較されます。キリスト教徒の共同体である教会は、ゆくゆくは人類全体がクリスチャンになればいいと思っている。けれども、どんなに大規模で傲慢なネーションも、世界中の人が中国人になればいい、米国人になればいい、とは考えない。ネーションはどんなに大きくても限られたものであるということが特徴の一つです。

 二つ目に、ネーションは「新しいのに古く感じられる」という特徴があります。学者によって少し見解が違いますが、いつからネーションがあったのかというと、9割以上の人がネーションは近代の産物だと言います。これは、長くても200年少々ということです。例えば、普通の日本人が自分を日本人だと思うようになったのは、おそらく日清戦争から日露戦争の間ぐらいの時期。約100年前のことです。ところが多くのナショナリストは、日本という国の存在はもっと古いと考える傾向があります。1千年以上前の6~7世紀にさかのぼって天皇を「万世一系」と称したりしますが、そのころにはまだ日本人はいなかった。このように、客観的には非常に新しいのに古いと感じるのが、ネーションの重要な特徴の一つです。

 三番目に、これも分かりにくいのですが、ナショナリティーは形式的に見ると普遍的に存在するように思えるけれど、具体的に見るとものすごく多様だという特徴があります。これは次のような比喩で考えると分かりやすいと思います。例えば、明治大学と立教大学の学生は、それぞれ入学基準が違うので学風や学力などに若干違いがある。でもこれは遠くから見れば大同小異でしょう。どちらも(日本の)大学生だから同じような年齢だし、同じような学力だし、関心があるものも同じだし、若者気質も同じ。客観的にみれば、大学間の差異は決して大きくはない。ところがネーションの場合はそうではない。世界中の人がどこかのネーションに一応所属していることになっているのに、個々のネーションを見ていくと、例えば日本人的なものとギリシャ人的なものは全然似ていない。ネーションそのものはどこにでもある一般的なもののはずなのに、一つ一つは大きく違うというのが重要な特徴です。

 四番目には、どんなネーションも非常に強い平等志向性があるのに、ネーションの中では必ず不平等や差別がある。国民意識が目覚めてくる過程では、「国民はみんな平等だ」という意識が強くなって、しばしば民主化運動が盛んになります。日本も、江戸時代には士農工商と身分が分かれていたのが、明治維新のときに身分がなくなって国民意識が生まれる。そうなると「国民は平等でみんな仲間だ」という意識が強まりますが、日本も含めたどのネーションでも、必ずマイノリティー(少数派)やマージナル(周辺・辺境)な人がいる。中心でイニシアチブを握っている人との差別が必ずあるわけです。このように、平等志向なのに差別がある、というのもネーションの特徴です。最後にもう一つだけ言っておくと、ネーションは最初に言ったように、文化やライフスタイルから生まれた仲間意識が元になりますが、どんなネーションも単に文化的な仲間に充足せずに、政治的に自立したり、主権を持とうとしたりする傾向が非常に強い。国民国家は比較的安定しますが、国民国家になれなかったネーションは紛争の種になりやすい。こうした特徴を押さえておけばいいんじゃないかなと思います。

拡大

うさぎ なるほど。非常に分かりやすい説明で、面白かったです。

金子 僕は経済学が専門なので、法律の共有や軍隊で財産権を守るといった国内の自由な市場をつくるための「器」として、国民国家が最終的に形成されるという感覚で受け止めています。だとすれば民族も同一じゃなくていい。例えば「米国人」といっても、米国には多様なオリジン(出自)の人がいます。米国も中南米も、先住民に対して植民地を新しくつくった人たちがネーションをつくり、近代の資本主義が成立しました。海に隔てられた日本にいるとネーションが昔から続いているように見えますが、他の大半の国の国境や国の成り立ちは、不安定でどんどん動いているというのが本当のところです。

 もう一つ言うと、皮肉なことに、第1次大戦や第2次大戦の「総力戦」を契機にして「福祉国家」が誕生しました。第1次大戦後のドイツでワイマール憲法が生まれ、第2次大戦中に英国の社会保障を基礎づけた「ベバリッジ報告」が出され(1942年)、ベトナム戦争中にジョンソン大統領の「偉大な社会」が唱えられました(1965年)。こうして、外敵から守るべき国家に属するすべての人が投票権を持って参加し始め、大衆民主主義の世の中になっていきました。

 近代国家以前は、軍隊も傭兵で、一部の権力者同士が争っているだけでしたが、全ての国民を徴兵で動員して誰もが「国」のために死ぬ可能性があるような戦争になったので、本来は幻想に近いナショナリズムにアイデンティティーを依存する強い関係が生まれました。ですから「昔からあった」と信じ込んでいる人たちに対して「目を覚ませ」と言いたくなる面がある。

うさぎ ナショナリズムは、私たちが思っているよりも多様なんですね。

金子 多様だし、恣意的です。大澤さんから「ふるさと感覚」という説明もありましたが、確固とした共同体のように見えて、実は歴史的に作られたものだということです。

大澤 2度の世界大戦で重要なのは、死者の数もさることながら「国のために死のう」と思った人が100万人単位でいた、ということです。それほど、みんな一生懸命に愛着を感じるのに、よく考えてみると本当は全然知らない相手に仲間意識を持っているだけ、というのが不思議なところです。

うさぎ 先ほどの大澤さんの説明でちょっと「ぎくっ」としたところがありました。それは、「直接的なパーソナルな関係を圧倒的に超えた共同体」というネーションの定義についてです。というのも私は、浅田真央ちゃんのジャンプが成功するかどうかにまったく興味がないんですよ。「柔ちゃん」(女子柔道の谷亮子選手)が金メダルを取って大騒ぎしている日本人に対しても「それは彼女の手柄でしょ」といつも思います。そういう私はナショナリストではないのでしょうか。

大澤 比較的ネーションの意識から解放されているということは確実に言えますね。

うさぎ それは、日本人のアイデンティティーが薄いということですか。

大澤 ある意味ではそうかもしれないですね。

金子 うさぎさんは、そもそもスポーツが好きじゃないでしょ。

うさぎ スポーツも好きじゃないし、あらゆることを割と個人単位で考えます。

金子 (小惑星探査機の)「はやぶさ」が地球への帰還に成功したといっても、別に感動しないでしょうね。

うさぎ 「はやぶさ」って何ですか。

金子 (60億キロの距離を7年かけて)宇宙を回って帰ってきた日本の探査機です。

うさぎ それは打ち上げた人たちの手柄でしょ。そんなものは飛ばしたい人が飛ばせばいいんですよ。

金子 大澤さんの定義に引きつけて言えば、個人と国に対する距離感も多様だと思います。9・11やイラク戦争で愛国心を叫ぶ米国人も、実際に会ってみると、ものすごく個人主義的だったりします。

うさぎ ナショナリズムといわゆる「保守」との違いが、私の中ではあいまいです。

大澤 ナショナリズムと保守はよく混同されますが、まったく別のものと考えた方がいいと思います。つまり、リベラルなナショナリストもいるし、コンサバティブなナショナリストもいる。保守というのは、保守じゃない考え方と比べるとよく分かります。保守じゃない考え方というのは、「エリートや物のよく分かっている人が社会をゼロから設計してつくっていくことができる、そうした合理的な社会をつくろう」という考え方です。それに対して保守は、「どんなに優れている人間や考え方であっても、そこまでの力は個々の人間にはないから、人間が歴史的につくってきた英知を大事にしよう」と考えます。だから保守は伝統を重視します。もちろん、先ほど触れたように、ナショナリストは古いものが好きな傾向があるので、伝統重視の保守主義者と仲が良い傾向はあります。でも、歴史的にはリベラルなナショナリストもたくさんいましたから、別のものだと思った方がいいと思います。

金子 例えば、革命主義は保守とは言えない。でも、戦前の石原莞爾のように「革命」主義でナショナリズムを追求して満州国を設立したグループもいれば、2・26事件を起こした青年将校もいました。それとは違って、一見、穏健な保守のように見えて、伝統を尊重しながら漸進的に(ゆっくり)変えていこうというグループもいました。このように革命や保守といっても座標軸上のいろいろな位置関係があるのに、保守も右翼もナショナリズムも単純化して一緒くたにされがちです。靖国問題で何かを主張したからといって、みんな右翼で保守でナショナリズムかというと、そうではない。

うさぎ ナショナリズムと保守、右翼の違いはどうなのでしょうか。

大澤 僕は日本で右翼を考えるときは、少なくとも天皇とのつながりを考えた方がいいと思います。「ネット右翼」がどうなのかは少し微妙ですが、いずれにしてもやはり天皇(制)を核に置いた思想が右翼だと考えておいた方がすっきり分けられるのではないか。というのも、日本ではネーションやナショナルな伝統の核に天皇を置く人が多い。僕は必ずしも結び付かなくてもいいと思いますが、そういう人が多いので、右翼とナショナリズムは結び付きやすい傾向があります。

金子 冷静に眺めると、不可思議な現象がいろいろあります。ネット右翼と呼ばれる人たちの一部は、家の中に閉じこもっていて家族や地域との関係も寸断されている。それなのに、いきなりバーチャルな世界で国家やふるさとにアイデンティティーを見いだそうとしている。また、今の天皇一家は日本国憲法を最もよく遵守して体現していて、憲法「改正」の防壁になっている人でもある。皇室は、普通の日本人よりもよほど民主的な家族のように見えます。そうしたねじれが至るところにあって、ナショナリズムや保守、右翼をカリカチュアした印象だけで考えると、本当のことが何も分からない。

大澤 そうですね。とすればそのまま当てはめないにしても、まずは標準的な定義から見ていく必要があります。ネット右翼については、また後で議論になると思いますので。

うさぎ 木村さんは一水会という右翼組織の代表ですが、ナショナリズムと右翼、保守の違いというか関係をどうとらえていますか。

・・・ログインして読む
(残り:約37175文字/本文:約49504文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。