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問題が多い防衛省装備調達の入札方法

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 前回(2月10日付「防衛省の装備調達改革と『商社悪玉論』の欺瞞」=リンク入る)、防衛専門商社のマージンの「タテマエと本音」について述べた。

 前回も述べたように、2007年の山田洋行がらみの防衛調達スキャンダル後、原則として随意契約がなくなり、一般競争入札が行われることになった。だがこれも調達改革にはほとんど役に立っていない。一見、すべて競争入札にすると競争原理が導入されて効率化が図られるように思えるだろうが、実はデメリットも大きいのだ。

 一般競争入札は同じ製品、あるいは同じような製品が多数市場に存在する場合は有用である。例えば、乾電池やオフィス家具などの汎用品がそうだ。これに対してオンリーワン以外に代替品が無いものに対しては適していない。防衛省が調達する兵器のほとんどが後者に当てはまる。

 ところが、皮肉なことに、空自のオフィス家具や事務用品の競争入札では、いわゆる「官製談合」が行われていた。05~08年度に契約した311件、75億6千万円の契約がすべて官製談合だったということが判明し、昨年、外薗健一朗空幕長が引責辞任した。

 もっとも空幕長の任期は通常2年。外園氏は2年以上も空幕長の地位に留まっていた。つまり任期を引き延ばして「辞任」したわけで、単に世間に向けた「空幕長の腹切り」のパフォーマンスに過ぎない。少なくとも筆者にはそのようにしか見えない。本当に責任を感じていたなら、もっと前に辞めてしかるべきだ。問題解決のための改革といえる改革は行われておらず、このままでは恐らく同じことが繰り返されるだろう。

 ちなみに、これは天下り先の業者に仕事を振るための談合だったのだが、実は天下りには「隠れ天下り」も存在する。防衛産業大手に直接天下りができないので、その企業の取引先の「防衛省とは縁もゆかりもない企業」に将官が天下りするケースもある。

 これら市販品の調達は、本来、バイイング・パワーのあるヤマダ電機やアスクルなども参入してもいいようなものだが、防衛省の調達は複雑で面倒なので、ほとんどが防衛専門商社や兵器を生産している防衛産業のメーカーによる応札となっている。例えば会議用の折りたたみイスなども某大手商社が担当していたりする。

 競争入札で成果を期待するのであれば、既存の防衛省納入業者は当然のこと、新規の業者も参入しやすく、手続き面でも価格面でも透明な環境をつくるべきだが、それはなされていない。筆者から見れば新規参入を妨害したがっているようにしか見えない。

 また、オンリーワンの最たる装備である兵器のサプライヤーに対しても競争入札を導入しているがナンセンスである。例えば本年度、新たに採用された10式戦車も競争入札が適用されている。歴代の国産戦車を生産し、納入してきた三菱重工以外に誰が応札するのだろうか。まさかプラモデルメーカーのタミヤが応札するとでも思っているのだろうか。

 このように改革の美名のもと、頻繁に入札が繰り返されるようになると、サプライヤーは事業の継続が保障されないので、費用や手間がかかるスペアパーツの在庫を抱えたり、手厚いサポートを要求されることを嫌がるようになる。

 また、業者にとっては先が読めないので、何らかの形で製品を納入するたびに利益を確定する必要がある。当然、調達単価は高くなる。諸外国のように必要数と調達期間を明らかにして契約を結べば、サプライヤー側から見たリスクが減るし、事業計画が立てやすいので調達コストはさがるのだが、防衛省側はそのような調達方法を導入するつもりはないらしい。本来やるべき改革をやらずに小手先の改革をしても無意味である。戦略レベルの失敗を戦術レベルで取り返すことはできない。それどころか、応札業者が1社しかない場合、当局が値下げの圧力をかける場合も多々ある。落札の前後に値下げを要求することさえあるという。値下げを勝ち取れば調達担当者の評価に直結するからだ。

 本来、入札は複数の業者を競わせることによって競争原理を導入し、全体の調達価格を低減させる仕組みだ。泣いても笑っても入札した金額で決定される。業者も当局も恨みっこなしよ、というシステムが入札だ。だから業者はそれぞれ戦略を立てて、しかるべき値段を出して入札に応じる。入札の結果、よほどの問題がなければ、価格が一番安い業者が契約を獲得する仕組みだ。

 だが、入札事前後に値下げを強要するのであれば入札をする意味がない。業者は値下げを強要される分を予測して、高めの値段設定を行ってくるだろう。これでは、実在しない「定価」をもとにした「割引」表示と同様、「価格低減ゴッコ」の田舎芝居だ。これでは実質的な値段は下がらない。むしろ選定過程がより不透明になり、全体の調達コストが上がる可能性さえ出てくるだろう。

 そんなことを知らずに新規参入した真面目な業者は、しかるべき値段で落札しても、落札後の値下げ要求によって、本来得られるはずの正当な利益を削られる。これは単なる「新規参入業者イジメ」ではないだろうか。兵器などのオンリーワンの装備調達については、むしろ随意契約を透明化した方が合理的だろう。

 また、競争入札と称しても、本命に受注させるための下駄を履かせるケースが見受けられる。例えば、

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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