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 チュニジアを起点とした中東の政変ドミノがなかなか止まらない。政権批判と民主化を求める民衆の蜂起が連鎖的に続くのは、いずれも独裁政権が長期にわたり居座ってきた国々だ。国境を越えて政治変動が波及する様は1990年前後のソ連・東欧諸国を覆った民主化ドミノを思い出させる。

 当時、中国は国境を接する社会主義諸国で連鎖した民衆蜂起をきっかけとする民主体制への政権転換を「蘇東波」と呼び、その波及を極度に警戒し、息をひそめて推移を見守ったものである。この「蘇東波」とは中国の北宋の著名な詩人、蘇東坡をもじったものであるが、あの時の危機感に比べて、はたして今回の「中東波」の衝撃度は如何なものであろうか。

 中国当局は中東地域の独裁国家と中国共産党政権とは政権の由来や政治社会状況がまったく異なると説明し、ムバラク辞任後のエジプト情勢で見解を求められた外務省スポークスマンも「一刻も早い事態の鎮静化を望む」と低調に反応するなど、表向きは平静さを装っている。

 「蘇東波」の際は学生市民らの民主化要求を武力で鎮圧した天安門事件(89年6月)の直後であり、西側諸国の経済制裁下にあった。それに対し今回は世界中から不況脱出の出口としての役割を期待されている。こうした国際情勢の際立った違いに中国が自信を得ているのは確かだろう。

 しかし「中東波」が国内の民主化を求める動きを刺激する可能性も感じ取っており、神経をとがらせているのも間違いない。それはインターネット上の関連情報に制限措置がとられ、新聞報道も国営新華社の配信ニュースに限定されていることにもうかがえる。これは政治的に敏感なニュースは「統一口径」(論調の一本化)にする中国当局のお得意の手法である。

 では、なぜ中国が不安を感じているのか。それは胡錦濤政権が「中東波」が無くとも、そもそも国内の社会情勢に危機感を抱いているからだろう。チュニジアやエジプトで民衆が立ち上がった一因として食料などの物価高が指摘されるが、これは昨今の中国民衆の最大の不満点でもある。しかし、それ以上に深刻なのは30年を超えた改革開放政策の中で生じた経済格差の問題が中国社会に滓(おり)のように沈潜し、この構造的な問題を背景に年間10万件を超えるだろうと推測される大衆による「集団的抗議事件」が頻発しているのだ。

 昨年秋の尖閣諸島事件後に起きた「反日デモ」は、本来はまず発生しても不思議でない学生数の多い北京や上海では平穏で、格差が深刻化している内陸部の中小都市で立て続けに起きた。 ・・・ログインして読む
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筆者

加藤千洋

加藤千洋(かとう・ちひろ) 加藤千洋(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。1972年、朝日新聞入社。大阪本社社会部を経て北京特派員、アジア総局長、中国総局長などを経て外報部長。編集委員。2004年から2008年まで「報道ステーション」(テレビ朝日系)コメンテーター。一連の中国報道で99年度ボーン上田記念国際記者賞。

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