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中東最大の見本市、IDEXと兵器生産拡散の現実

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 今週日曜日から24日まで開催されているUAE(アラブ首長国連邦)の首都、アブダビで開催されている中東最大の兵器見本市、IDEXを取材した。

 中東、あるいはアラブ諸国の兵器の見本市というと産油国が金にあかせて兵器を買い漁っている、というようなイメージがあるかもしれない。実際そのような傾向はあるが、中東は単なる兵器の買い手ではなく、近年では兵器産業を興し、自国はもちろんのこと、他国に輸出する国も増えている。

拡大KADDBが旧式戦車センチュリオンをベースに開発した重装甲兵員輸送車MAPII。

 国産化すれば貴重な外貨を使う必要がなくなるし、輸出に成功すれば外貨を稼ぐことも可能になる。このため、特に非産油国では工業を興すために兵器産業の育成に力を入れている国は少なくない。

 その好例がヨルダンだ。国王の肝いりで、1999年に国営兵器工廠、KADDB(King Abdullah Design and Development Bureau)を設立。KADDB自体はどちらかというと商社や投資会社のような性格の組織で、主として外国の企業とのジョイント・ベンチャー(合弁)で子会社を設立し、自国向けの装備を開発しつつ、それを輸出している。

 その成功例が英国の特殊車両メーカー、ジャンケル社とのジョイント・ベンチャーだ。ジャンケル社は英国本国では試作工場だけを残し、生産拠点をヨルダンに移している。ヨルダンの安い労働力と同社の主要顧客が多い中東諸国へのアクセスが容易なため、製品のオーバーホールや修理などアフターサービスの面でも有利だ。

拡大サウジアラビアの国営のミリタリー・インダストリー・コーポレーションの新型装甲車、シビル。ランドクルーザーのエンジンや駆動系が流用されている。

 同社がトヨタのランドクルーザーの駆動系を流用して開発した特殊部隊用長距離偵察車、アブサヤフはヨルダン軍だけはなく、アフリカや欧州にも輸出されている。今回サウジアラビアの国営のミリタリー・インダストリー・コーポレーションが発表した装甲車、シビルにもランドクルーザーのエンジンや駆動系が流用されている。実はランドクルーザーをベースにした装甲車は世界中で多くの企業が開発している。

 また、KADDBはUAEのビン・ジャバ・グループ社が開発した軍用車輛、ニマー(アラブ語で虎の意味)を生産している。これは米軍が使用している汎用車輛、ハンヴィーに似た車輛で、当初から装甲車型も並行して開発されている。今回のIDEXでは現用車種をアップグレードした非装甲型の4×4と、6×6の装甲車の最新型が発表された。この車輛はUAEだけではなく、リビアやヨルダン、レバノンなどでも採用されている。

拡大UAEで生産されているカラカル拳銃。UAEの国防軍や警察で採用されている他、輸出もされている。

 同様にUAEのカラカル・インターナショナル社は2007年にピストルの自国生産を開始し、今回は新型の狙撃銃を発表していた。設計にはオーストリア人を起用し、近代的な設備で生産されており、性能的にもかなりの水準に達している。これは製造行程にも「お雇い外人」を招聘し、最新の工作機械を導入しているためだ。

 かつては、銃器の製造のためには熟練した工員の経験と手作業が不可欠だったが、今ではNC工作機を使用すれば機械が自動的に高品質の部品を製造してくれる。このため2000年代に入って途上国の小火器の精度が極めて高くなっている。このような兵器工場で日本製工作機械が使われていることは少なくない。

拡大UAEで開発された軍用車、ニマー。写真は最新の6×6装甲車型。

 装甲車輛や小火器だけでなく、UAV(無人機)、重火器、艦艇、暗視装置、ミサイルなど、多様な兵器システムが中東で開発あるいは生産されている。また技術的にもかなり高度なものが登場している。例えばトルコのアセルサン社が開発した対空ミサイルシステムをオランダ軍が採用するなど、先進国に匹敵する製品も出始めている。今回の見本市には参加していいないが、イランは弾道ミサイルや潜水艦などまで自国で開発している。

 このようなことは第1回目のIDEXが開催された91年には、予想されていなかっただろう。

 その理由はいくつかある。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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