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 調査捕鯨をめぐる論議は、それぞれの立場によって大きく異なり、どれが正しいとは言えない。私が2月まで勤務した石巻には鮎川という沿岸捕鯨の基地があるので、沿岸捕鯨の実際も取材した。その経験を踏まえて沿岸捕鯨という視点から見ると、また違う議論が出てくる。

 沿岸捕鯨は、いうまでもなく日本の伝統的な漁業で、日本各地に散在していたが、明治以降に捕鯨が近代化されるなかで、沿岸捕鯨の基地は減り、現在は、網走と函館(北海道)、鮎川(宮城)、和田(千葉)、太地(和歌山)に絞られている。

 捕鯨モラトリアムによって沿岸でも多く獲れたミンククジラが禁漁になった結果、商業捕鯨としては、小型鯨類に分類されIWCの規制対象からはずれたツチクジラやゴンドウクジラなどを捕獲する一方、調査捕鯨の近海版として、ミンククジラを120捕獲している。

 商業捕鯨といっても捕獲は自由ではなく、日本政府の管理下のもとツチクジラは66頭、マゴンドウは50頭など制限されている。これらの捕鯨は、捕鯨業者の裁量で獲っているので、市場価格によって売り上げは左右されるが、調査捕鯨は国の事業の下請けなので、市場価格に左右されることはないが、もうけも限定されている。

 沿岸漁業者の悲願は、ミンククジラの商業捕鯨の再開だ。商業捕鯨も調査捕鯨も同じように思えるが、沿岸捕鯨業者にとっては、調査捕鯨は調査期間も限られているので、市場の動向を見ながら捕獲することができない。また、調査のため洋上での血抜きができず、そのために肉質が劣るという。調査捕鯨の120頭という枠は、沿岸の資源量からすれば少なすぎるといい、最低でも150頭を求めている。

 それでは、沿岸捕鯨漁業者は南極海での調査捕鯨をどう見ているか。同じ捕鯨という点では仲間意識もあるが、商売という意味では商売敵でもある。国内の鯨肉需要が減るなかで、南極海での調査捕鯨が5000トンもの在庫をつくった結果、ツチクジラなどの鯨肉価格が下がり気味になっているからだ。

 本音を言えば、南極海での調査捕鯨を縮小して、と言いたいところだろうが、近海での調査捕鯨が経営の底支えになっているうえ、ツチクジラなどの捕獲枠を事実上、決めているのは水産庁だから、「口が裂けても、南極海での捕鯨縮小などとは言えない」状況になっている。

 また、シーシェパードやグリーンピースなどが南極海での調査捕鯨を中止に追い込めば、次の標的として沿岸捕鯨に狙いをつける可能性がある。そうなると、ツチクジラなどの商業捕鯨、ミンククジラの調査捕鯨も、影響を受けるのは確実だ。だから、南極海での調査捕鯨が自分たちの盾になっているという漁業者もいる。

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筆者

高成田享

高成田享(たかなりた・とおる) 仙台大学体育学部教授(スポーツメディア論)

1948年、岡山市生まれ。71年に朝日新聞社に入り、経済部記者、アメリカ総局長、論説委員などを経て、2008年から石巻支局長。この間、テレビ朝日系「ニュースステーション」キャスターも経験。2011年2月に退職し、仙台大学教授。東日本大震災後、復興構想会議の委員を務める。主な著書に『ディズニーランドの経済学』(共著、朝日文庫)、『こちら石巻 さかな記者奮闘記――アメリカ総局長の定年チェンジ』(時事通信出版局)、『さかな記者が見た大震災 石巻讃歌』(講談社)など。

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