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衝撃のレポート――日米関係の将来を憂う

鈴木崇弘

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 

 手許に最近出されたばかりの衝撃的なレポートがある。そのタイトルは、「停滞する日米政策対話・研究と再活性化の諸方策(http://www.jcie.or.jp/japan/pub/publst/1443.htm、[財]日本国際交流センター)」である。

 同報告書は、日本の対外関係の機軸である日米関係に直接的な影響を与え、その下地づくりになる民間の政策に関する対話や研究が、近年において、著しく停滞しているという危機感に基づいて書かれている。筆者も、米国のシンクタンクや大学での、日本研究者や日本関連のプロジェクトが激減していること、他方中国に関するものは急速に増えているという話を、少しし以前から話は聞いていたし、感じていた。本報告書は、それを具体的に裏付けたものだ。

 同報告書において、主に次のようなことが指摘されている。

◆   ◆   ◆

○1990年代後半以降、日米対話・研究は大幅に後退

 ・1990年代以降、日本の政策研究機関での、米国の本格的な対話や研究に取り組む能力が大きく低下。

 ・ワシントンの有力シンクタンクでは、日本関連の政策対話・研究が大幅減退。

 (具体的な事例)10年間で、日米関係に特化した事業のシンクタンク数は20から10に半減。2009年に中米関連事業を行った有力シンクタンク数は、日米のカウンタパートの2倍。ワシントンの有力シンクタンクで中国研究の上級研究員の数は40名(日本の研究者の実に10倍に相当)。

 ・1990年代後半に比べ、訪日する米国連邦議会議員の数は70~75%低下。同議員数を、他国と比較しても激減(ドイツ7倍、フランス・英国3倍、中国2倍)。

○日米政策対話・研究の組織基盤の衰退

 ・1990年代後半以降、日米政策交流事業を担ってきた民間組織の多くが大幅に弱体化(特に日本側の状況が深刻)。具体的には、国際関係で有力な5団体の年間予算は、1998~2008年の10年間で40%縮小。他方、米中の機関による共同プロジェクト数は、日米の共同プロジェクト数の2倍。

○乏しい資金源が更なる対話・研究の減退を惹起

 ・日米関係の分野で中核的3財団(国際交流基金日米センター、日米友好基金、日米財団)の政策対話・研究に対する助成は、1995年と比較して物価調整後の額で87%の減少。他の財団や企業による日米関連の助成も激減。

 ・日米の政策関係者の多くは、日米政策対話のプロセスに不満を抱いており、現在のあり方では、両国が直面する最重要な長期的課題に充分に対応できないという懸念を有している。

◆   ◆   ◆

 ご存知のように、民主党中心政権が2009年に発足して以来、日米関係がぎくしゃくしてきている。しかし、この報告書の指摘が正しいとするなら、現在の不安定化した日米関係の素地は、実は、すでに10年前からつくられてきていたのかもしれない。

 そのような素地があり、民主党が日米関係で独自路線をとろうとしたことにより(彼らの主張の根拠や裏付けがあまりに軽薄なものであったという面もあるが)、こうした長年の日米間の対話や関係の希薄化が、より鮮明に表われてきたといえるかもしれない。

 たとえ意見や考えが異なっても、二国間の外交関係のベースになる民間の対話などが続いていれば、国際関係が最悪の事態には至ることは少ない。その対話が希薄化し、関係が脆弱になった時に戦争や紛争が起きることは、歴史が示している。

 その意味から考えると、本報告書が示している日米関係の基礎になる政策の対話や研究の希薄化は、由々しきことだ。特に、中国の国際的存在感が増大し、日本のそれが急激に損なわれている現状においては特にそうであろう。

 だが一番重要なことは日米のこれまで、現在、そして今後の関係自体、および日米における政策の対話と研究などとの関係性である。つまり、日本が、自国の国益を考える中で日米関係をどうしたいかを決め、それを補完するものとして、政策の対話や研究をどのように活用するかを考えるべきなのだ。

 より具体的にいうと、日米関係が今後も重要なのであれば、それにともなう政策対話・研究もかなりの質量がないといけない。また日米関係は重要だが、その関係の重要性を長期的に低下させていく場合は、日米に関わる政策の対話や研究をある時期は増やし、その後、中長期的には減少させていくようにすることで、日米関係の重要性の変化が不信感の増大につながらないように工夫し、新しい関係へとソフトランディングさせるようにしていけばいい。他方、日米関係を強化する場合も、日米における政策対話・研究の質量を増大させ、重層的に関係構築を図る必要がある。

 しかし、同報告書を見る限りでは、そのような戦略的視点から、日米の政策対話・研究が減少してきている様子は伺えない。むしろ、日本の経済や政府予算の縮小のなかで、なし崩し的に関連資金が激減してきているように感じられる。これは非常に問題がある。

 さらに、政策対話・研究の外交および国際関係への活用は、日米以外の他の国や地域との関係や日本の国際・外交関係の全般においても同様の方法をとるべきである。

 その点でまず最初になされるべきことは、 ・・・ログインして読む
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筆者

鈴木崇弘

鈴木崇弘(すずき・たかひろ) 城西国際大学客員教授(政治学)

城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授。1954年生まれ。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センターやハワイ大学大学院等に留学。東京財団の設立に関わり、同財団研究事業部長、大阪大学特任教授、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり、同機関理事・事務局長などを経て現職。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。著書に『日本に「民主主義」を起業する――自伝的シンクタンク論』『シチズン・リテラシー』『僕らの社会のつくり方――10代から見る憲法』など。

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