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オピニオン3・11――東日本大震災を考える(5)【無料】

朝日新聞3月19日付オピニオン面(宮城県知事・村井嘉浩さん)

 1週間たった。まだ、広範な被災地のどこで、何が起きたかすら、つかみきれていない。その被災地から、叫びが、訴えが届く。いま、何を緊急に必要としているのか。いま、何をしなくてはならないのか。

◆被害は数兆円、すべて失う 県が復興基金、国は支援を

宮城県知事・村井嘉浩さん

拡大宮城県の村井嘉浩知事=大野明撮影。

 宮城県は、有史以来、経験したことのない大きな災害を被りました。恐らく死者・行方不明の方を合わせると1万人を超え、被害総額も数兆円にはなる。県の1年間の一般会計は8千億円ですから、今回受けた被害額はそれをはるかに超えています。

 ただ、東北の皆さんは非常に粘り強くて寡黙でコツコツとまじめにやる気質を持っています。必ず、元に戻すことができる。私はそう信じています。

 いま、被災地で必要なのは燃料、それに尽きます。救援物資を運ぶための灯油や重油、軽油、そして人が移動するための燃料である食料です。食料を保管する倉庫は港の近くにありましたが、それが全部、津波でやられてしまいました。だから次のステップとしては、食料を保管する場所を確保していかないといけない。やはり食べ物、飲み物、燃料。この三つがいま、一番必要なものなのです。

 そして、被害が大きかった所ほど、支援の手が届きづらいというジレンマがあります。情報の伝達手段がないので、なかなか向こうの状況が伝わらない。被害の少ないところの首長さんのほうが私に頻繁に電話してこられるんですよ。心の余裕もあるので、いま自分の自治体はこういうものが必要だとしっかり伝えられるんですが、本当に被害が甚大だったところの首長さんは電話もつながらない。通信ができる環境であっても、忙しすぎて電話をする暇もない。

 しかも、この雪ですから。残念ながらヘリコプターも飛ばせないんですよ。この時期にこんな天気になるなんてありえない。本当に考えられないことだらけですよ。

 我々は届く声だけに反応するのではなくて、全体を俯瞰しながら、どこが一番ひどいのか、そのひどい所にどういう物資を届けないといけないか、を考えていかなければならないんです。

 これだけの被災者が出ましたので、被災者の人たちの生活を元に戻すため、全国の皆様に段階をおって支援をいただきたいと思っています。

 仮設住宅ができるまでずっと、避難所の劣悪な環境でいることはとてもできません。どこかの場所に皆さんで移っていただかなければならない。宮城県内だけではカバーしきれないと思いますので、全国で受け入れていただかないといけない。岩手県も福島県も同様だと思います。全国規模で考えていただきたい。

 被災を受けた方は、できるだけ元のまちで生活できるようにしたい。もちろん、希望をとってですけれども。恐らくほとんどの方は自分の生まれ育った、今住んでいる町で生活し続けたい、という方が多いと思います。

 そういった所で仮設住宅をつくりたい。県営や市町村営住宅に優先的に入って頂き、一般アパートも公共のものとして借り上げていく。一時的には空いている温泉や旅館といったところに一時的に避難していただくことも考えないといけない。

 次の段階は仕事を見つけて、新たな収入源を確保していかなければいけない。被災されたのは水産業、水産加工業に携わっていた方が非常に多かったが、それがまったくゼロになりました。まったくのゼロです。どうやって、水産県として元に戻れるか。これには、国のイニシアチブが必要だろうと思います。

 仕事がないので、もうまちから離れざるを得ないという方もいるかもしれません。なるべく、細かいケアをしていかないといけない。「ここに移り住みなさい」ではなく、ご自身の意思を確認した上で、その人のニーズにあった所に移動していくように市町村にお願いしたい。

 ただ、特に被害がひどかった南三陸町や女川町は役所自体がなくなった。仮設の役所もつくらないとならない。少し落ち着いたら、県としても職員を本格的に派遣して、役所機能が回復できるお手伝いをしなければならない。宮城県もギリギリの人員でやってますので、そんなにたくさんは派遣することはできません。足りない部分は、国の支援をお願いしていくことになると思います。

 県民の財産は数兆円、失われたでしょうね。地震だと完全に倒壊する家もありますが、だいたいは半壊とか一部損壊で、お金さえかければ元に戻ることも多い。その場合、少なくても家の中の物は残っている。財産は残った上で、壊れた部分を修復していくという問題です。今回は、津波で全部なくなってしまった。通常の災害とはまったく受けた被害の規模が違う。

 被災を受けた住宅や車は粉々になっているんですけど、これは個人の所有物です。一方、被災者生活再建支援法で支援金が出るのは自宅再建費だけで、それも上限はたった300万円。このギャップをどうするかということを、国として考えてほしい。撤去問題も含めて、です。

 宮城県としては復興基金をつくろうと考えています。例えば、県や市町村が1兆円のお金を借りるというスキームです。基金を運用すると、利息が生まれる。それを復興資金に充てる。1兆円あれば0・2%の金利であったとしても、20億円ぐらいのお金が生まれる。借金の金利分は国に地方交付税として負担してもらいたい。

 ただ、そんなもん数兆円の被害からすれば、すずめの涙ですね。巨額な資金をどう調達すればいいのか、検討がつかない。激甚災害の指定になって、復旧費の9割とか8割を国が面倒をみてくれるとはいえ、1割か2割は都道府県の責任でやりなさいという仕組みになっている。残念ながら、そんな金額を出せるわけないですね。国がしっかりとした特例法なりを定めて、ケアをしてくださらなければならないと思う。

 発生当初は、何から手をつけたらいいのか分からない状況でしたが、おかげさまでやっと電気が今日、県内の多くに届きました。被災を受けてどうしても復旧できない所を除いて、ですが。これまでは重油を使って病院などの臨時発電機をまわしていましたが、電気のための燃料の必要がなくなり、ほかに回すことができるようになる。わずかではありますが、復興に向けて歩みつつあります。

 しかし、一つの県の力だけで元に戻すことは絶対に不可能です。国全体の問題として取り上げるべきです。

 あと、全国の皆様にお願いしたいことがあります。被害を受けた人たちはいずれ、宮城県以外も含めて、いろんな所に移り住まないといけないことが想定されます。その際にはぜひ、地域の人間として、暖かく迎え入れていただきたい。みなさま、よろしくお願いいたします。(聞き手・田伏潤)

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 むらい・よしひろ 60年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊東北方面航空隊のヘリコプターパイロットに。松下政経塾、宮城県議をへて05年から現職。現在2期目。

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