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米海軍病院船の派遣を要請するべきだ

小谷哲男

小谷哲男 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

 東北関東大震災から2週間以上が過ぎ、死者・行方不明者が2万7500人を超えた。一方、避難所生活を送っている人は、26日の時点で24万4千人に及ぶ。ライフラインの復旧は進んでいるが、厳しい気象条件の下で被災者の健康問題が深刻となっている。避難所では、インフルエンザ等の感染症、成人病等の慢性病、そして透析患者や高齢者の健康問題が深刻である。

 しかし、岩手、宮城、福島の3県にあるベッド数が100を超える病院のうち、半数以上が医療スタッフや医薬品の不足、建物やライフラインの損壊、そして患者の集中来院によって、診療の一時的閉鎖や制限を余儀なくされている。遠隔地の医療施設にヘリで搬送するにも、日本全体が病院、医師・看護師不足という根本的な問題を抱えており、受け入れ先を探すことは容易ではない。遠隔地に急患を搬送している間に、亡くなるケースも増えていると聞く。

 このような状況下では、病院船が大きな役割を果たす。病院船とは、戦争や災害時に船上で傷病者に医療行為を施すことを目的とした船で、通常は海軍に所属している。国際法により、病院船は船体を白塗りにし、赤十字の標識を掲げることが義務づけられている。病院船に対する攻撃は、戦争犯罪である。

 日本は病院船を保有していない。1995年の阪神大震災の後、病院船の保有に関する議論がなされたが、立ち消えとなっている。代わりに、「おおすみ」型輸送艦や「ひゅうが」型護衛艦に野外手術システムを搭載しているが、病院船1隻の能力と比較すれば、限定的であることは否めない。

 中国が19日に京都で行われた日中外相会談で病院船の派遣を提案したが、被災地周辺の港湾に横付けすることができないとの理由で日本政府が断ったと報道された。中国が持つ最新鋭の920型病院船の能力については諸説あるが、2万トン前後で、ベッドも300から600床あるらしい。また、ヘリを搭載しているので、中国がこの920型の派遣を提案していたならば、港湾に横付けすることなく、ヘリで患者を搬送することができたはずである。いずれにせよ、中国の病院船が派遣されないことは残念である。

 現在、日本を支援するために「オペレーション・トモダチ」を展開している米海軍は、世界最大級の「マーシー」と「コンフォート」という2隻の病院船を保有している。それぞれ、6万9360トンで、12の手術室、1千床のベッド、CTスキャン、薬局、眼科、歯科等を備え、完全に自立した病院として、被災地近くの洋上で機能することができる。また、大型軍用ヘリが離発着できるため、ヘリで患者を搬送することができる。

 「マーシー」は西海岸に配備されており、2004年のインド洋大津波の後に被災地に派遣され、半年にわたる展開の間に9500人以上の患者の治療を行った。「コンフォート」は米国の東海岸に配備されており、最近では2010年1月のハイチでの地震の際に派遣され、1日に100人以上の患者を治療した。

 米太平洋艦隊は、インド洋大津波救援の経験に基づき、「マーシー」等数隻の艦船をアジア・太平洋地域に派遣して、途上国や離島地域における人道・医療支援を行う「パシフィック・パートナーシップ」プログラムを2006年以降毎年行っている。2010年には、鳩山前首相の「友愛ボート」構想を実現する形で、海上自衛隊の輸送艦「くにさき」もこれに参加し、自衛隊医療チームとともにNGOの職員も同艦に同乗した。

 しかし、米国防省の担当者によると、日本政府から「マーシー」の三陸沖への派遣要請はまだ来ていないという。 ・・・ログインして読む
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筆者

小谷哲男

小谷哲男(こたに・てつお) 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

法政大学非常勤講師。1973年、兵庫生まれ大阪育ち。専門は日米同盟と海洋安全保障。日本国際問題研究所研究員及び平和・安全保障研究所研究委員を兼務。同志社大学法学研究科博士課程満期退学。米国ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。平成15年度防衛庁長官賞受賞。平和・安全保障研究所・安全保障研究奨学プログラム13期生。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

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