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合成燃料(3)官民あげて自衛隊の省エネを推進せよ

清谷信一

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 これまで、3月23日付「なぜ合成燃料を積極導入しないのか」と、3月25日付「合成燃料(2)軍用車両でも威力を発揮するFT燃料」で、FT燃料が航空機や兵站の運用コストを劇的に改善する可能性を述べてきた。

 我が国は、こうしたFT燃料の生産・実用化に出遅れている感がある。

 だが、2006年に国際石油開発株式会社、新日本石油株式会社、石油資源開発株式会社、コスモ石油株式会社、新日鉄エンジニアリング株式会社、千代田化工建設株式会社の6社が「日本GTL(Gas to Liquids)技術研究組合」を立ち上げ、新潟で天然ガスからFT燃料を合成する試験プラントを建設している。

 我が国は世界最大の液化天然ガス輸入国だが、液化天然ガスは液化にコストが掛かっており、これでFT燃料を合成すると割高になる。また、現在のところ、我が国にはさほど天然ガス田がないため、外国で天然ガスから直接FT燃料を生産し、それを輸入するのが現実的である。

 三井海洋と東洋エンジニアリングは、船にFT燃料のプラントを搭載して、海底のガス田から天然ガスを吸い上げてFT燃料を生産するシステムの実用化を行っている。ガス田が次のガス田に場所を変えて操業を継続できる。現在、両社は約40億円を投じて米国に実証プラントを建設しており、2013年に商用化する計画となっている。これが実用化されれば我が国周辺や世界各地に多数存在する海底ガス田を効率よく利用できる。石炭や天然ガスなど地下資源だけでなく、バイオマスなども補助的にFT燃料の原料として使用できる。原料供給の多様化の面からも大きな意義があるだろう。

 前回述べたように、我が国も米軍を活用する米国同様、FT燃料導入に防衛省を活用すべきである。これは米軍とのインターオペラビリティ(相互運用性)を確保するという面からも有用だ。08年度、自衛隊の燃料費は約1007億円だった燃料費が平均で約36%も高騰したため、第3四半期以降の燃料費が大幅に不足し、補正予算を組んだ。防衛省は09年度予算で、燃料費を前年比54.8%増の1799億円を要求した。

 ちなみに06年度の燃料費は669億円に過ぎず、わずか3年で約3倍に膨れあがったことになる。防衛省の装備調達や訓練費や装備の維持費などは総額で約1.8兆円弱であるから、その1割に匹敵する費用となり、燃料費の高騰によって訓練や装備調達の費用が圧迫されている。その後、石油価格の落ち着きによって燃料費は減ったが、2011年度の予算では932億円が要求されており、これは前年度よりも91億円の増額にとどまった。だが、中東の不安定化と原発への不信から原油価格の高騰が予想され、補正予算で追加が要求されるだろう。燃料コストの削減は焦眉の急である。

 自衛隊が装甲車輛、大型トラックなどのディーゼル・ハイブリッド化を本格的に行う、あるいは新規のトラック調達ではハイブリッド車を優先して採用する。そうすれば民生部門も含めた日本国内における大型車輛のディーゼル・ハイブリッド化の呼び水となるだろう。自衛隊では軍用トラックだけではなく、通常のトラックやバンなどの車輛も多く使用している。ハイブリッド車の導入が進めば給油車を減らすなど、兵站をコンパクト化できるというメリットもある。また、装備のライフ・サイクル・コストの削減にもつながる。

 3自衛隊で一番燃料を消費しているのが海上自衛隊だ。現在、米海軍を含めて先進国を中心に、水上戦闘艦艇の推進システムとして低燃費で、ライフ・サイクル・コストが低いなど多くのメリットがある「統合電気推進システム」(IEP)導入がトレンドとなっている。また、以前から欧州の海軍では、水上戦闘艦にガスタービンとディーゼルの併用、あるいはディーゼル単体の推進を推進してきた。

 ところが海自は、コンパクトで推力は高いが、燃料消費の多いガスタービン推進にこだわっており、IEPの導入に消極的だ。海自の戦闘艦艇はステルス化でも大きく諸外国に遅れをとっているが、推進機関の技術革新でも大きな遅れを取っている。諸外国では、燃費を重視する艦隊補給艦など補助艦艇ではディーゼル・エンジンを搭載する例が多い。だが、海自は補給艦にまでガスタービンを採用している。このため補給艦「ましゅう」などでは自艦の燃料消費が大きく、他の艦に補給する燃料が減ってしまっている始末だ。

 海自の水上戦闘艦で主流となっているCOGAG(Combined Gas turbine And Gas turbine)は、複数のガスタービン・エンジンを組み合わせ、ギアボックスを通じて可変ピッチプロペラを駆動させている。艦内への電力供給は専用の発電機が使用される。

 これに対してIEPはガスタービンやディーゼルを発電機として使用し、推進用モーターを駆動させる。このためギアボックスが不要である。ギアボックスを不要になれば騒音の発生が大きく減少するし、耐久性、信頼性が向上する。従来のシステムだとガスタービン・エンジンとディーゼル・エンジンを組み合わせると個別にギアボックスが必要だったが、IEPではその必要はない。ゆえに高速に適したガスタービン発電機と、燃費に優れたディーゼル発電機を容易に組み合わせることができる。さらには高価で複雑な可変ピッチプロペラも必要ない。このため前後進の切り替えも簡単かつ迅速に行える。艦内に電力を供給する専用の発電機も必要ない。

 IEPは推進用のモーターとシャフトラインだけを艦底部に配置すればよいので、発電機、コンバーター、スイッチボードなどは艦底部におく必要がない。このため設計の自由度が高く、船体のコンパクト化も可能だ。例えばタービン発電機を上甲板に配置すれば、艦底部まで吸排気装置を引き込む必要がなくなるので、煙突などに必要なスペースが大きく削減できるだけではなく、発電機の取り外しや交換が極めて容易かつ低コストで可能となる。また運用コストと整備にかかる時間が低減できる。

 また、IEPは速力に応じて必要な電力を供給できるシステムなので、低・中速時には最低限必要な数のエンジンを動かせばいいわけで、一つ一つのエンジンを定格に近い状態で運転することによって、最終的な燃費の向上も期待できる。

 水上戦闘艦艇が年間を通じて高速で航行する時間は極めて少ない。大多数の時間は低速・中速で航行することになる。だから低速・中速での燃費が向上すれば、艦の燃費は劇的に改善する。このため欧州の海軍では、海自のように水上戦闘艦の最大速度を30ノット以上にすることにこだわらず、最大速度は27ノット程度のフネが多い。

 加えて、IEPでは必要に応じて年次検査などと無関係に個々のエンジンを換装できるので、艦艇の稼働率が大きく向上する。その上、高度な自動化による省力化、省人化が可能で、乗組員を減らすことができる。これは特に人手不足の海自にとっては大きなメリットであるはずだ。

 英海軍のケースだと旧式のタイプ42(5000トン級)に対して、IEPを採用したタイプ45(7000トン級)では、船体が1.5倍になっているにもかかわらず、燃料消費は1隻当たりの単純比較で45%の燃料の節約となっている。仮に1日30キロリットルの燃料が削減でき、年120日航行するのであれば年間2億5千万円の燃料費が削減できる。IEPは初期投資が高いのが難点だが、ガスタービンと比べた場合、5年ほどでその初期投資を回収できる計算だ。

 この統合電気推進とFT燃料を組み合わせれば、燃費の大幅な向上はもちろん、有害物質の排出も大きく減ることになる。米国では艦船の統合電気推進システムについて災害時を想定して、艦船統合電気推進システムで陸上に緊急で電源供給する案を検討している。例えば、日本のDDH「ひゅうが」クラスに統合電気推進システム搭載すれば、およそ民家2万戸の電源を供給できる(1.5MWが民家400戸と言われているので、このクラスだと75MWぐらいの発電能力がある発電機が搭載される)。ただし、このためには陸上に簡易変電施設が必要となる。

 海自で導入が進まない理由の一つとして、艦艇用エンジン・メーカーの抵抗があるといわれている。いままで必要だった減速機や可変ピッチ・プロペラが不要になるので、売り上げが減る。エンジン自体も現行のCOGAGに比べてより小さなもので済むし、保守・修理の仕事も減る。つまりエンジン・メーカーとしては売り上げが大きく減り、商売の旨味が減る。海自にとっても天下り先が減るというわけだ。

 別の例だが、電気メーカーが護衛艦に光ファイバーを導入しようとした際には造船所から横やりがはいった。光ファイバーは銅線ケーブルに比べて情報伝達量が大きいし、敷設工事が簡単なので建造費用も安く上がる。だが、造船所にはケーブル敷設のエキスパートがおり、「彼らの仕事が減る」との理由で造船所が抵抗したという。

 このような新しい技術に対する抵抗は、SLを作っている車輌メーカーが、自分たちの仕事が減るからといって電気機関車やディーゼル機関車の導入を妨害するようなものある。米国の自動車メーカーのビッグスリーは、ハイブリッド車や電気自動車の開発に乗り遅れた。米国の自動車労組は細かく職能ごとに区切られており、エンジンはエンジン屋が担当する。このため、新しいハイブリッド車や電気自動車を開発しようとしても、エンジン屋はモーターを扱えない。それどころか、自動車がエンジンの代わりにモーターを積むようになると自分たちの仕事が減るから抵抗する。現在ビッグスリーがどうなっているか、いまさら述べる必要もないだろう。

 米軍の取り組みに影響された防衛省・自衛隊も、遅まきながら、09年に省エネルギーに取り組むことを決定した。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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