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節電励行が損ねる「バリアフリー」環境

櫻田淳

櫻田淳 東洋学園大学教授

 過日、東京・築地の朝日新聞本社に出向いた折、隣接する都営地下鉄大江戸線築地市場駅の地上行きエスカレーターは、全機が停止していた。筆者は、「おいおい、どうやって地上に出ようか……」と一瞬、迷った。筆者が迷った所以は、重度身体障害の故に階段の昇り降りに難儀を来しているからである。東京都下、筆者が震災の影響を何よりも実感するのは、こうした「エスカレーターが停止した風景」に接した瞬間である。

 たとえば、「バリアフリー新法(高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)」(平成18年12月20日施行)という法律がある。これは、既に制定されていた「交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法)」と「ハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)」を統合した体裁の法律であり、具体的には、公共交通機関や公共施設などでエスカレーターやエレベーターの類を設置していくことを趣旨としている。

 とはいえ、筆者の印象では、この法律によって設置された地下鉄構内のエレベーターを利用しているのは、その頻度からすれば、障害を持つ人々や高齢の人々というよりも、「乳幼児をベビー・カーに載せた若い母親」が相当な割合を占めていよう。「バリアフリー新法」は、実質上、「子育て支援」の枠組としても機能しているのである。

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