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通訳、証人の確保、動機の解明……難問山積

小谷哲男

小谷哲男 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

 東日本大震災関連のニュースの陰で、日本の司法制度に大きな課題を突きつける問題が起こっている。

 去る3月5日、商船三井が運航するタンカー「グアナバラ」号(バハマ船籍)が、オマーン沖のアラビア海を航行している最中に海賊の襲撃を受けた。海賊たちは小型ボートで接近して同船に乗り込み、船長室に向けて自動小銃を発射、操舵室に進入して舵を握った。その後、同船は救難信号を受けたアメリカ海軍によって救助され、4人の容疑者が海上保安庁に引き渡された。24人の船員はすべて外国人でけがはなく、海上保安庁は海賊処罰対処法の海賊目的侵入・損壊容疑で容疑者を逮捕し、3月13日に身柄を日本に移した。

小型ボートを浜に引き上げる海賊たち=2009年、ソマリア北東部エイルで
 東京地検は被害者の証言に基づき、容疑をより罪の重い運航支配未遂に切り替え、4月1日に4人のうち3人を起訴し、1人は未成年の可能性が高いとして家裁に送致した。同罪の罰則は無期懲役または5年以上の懲役と規定されているため、裁判員裁判で審理されることとなった。

 海賊処罰対処法での立件は初めてである。この事案は日本から1万キロも離れた海域で発生し、加害者も被害者も外国人である。4人の海賊はいずれもソマリ語を話すが、内戦状態が続くソマリアでは身元を示す書類はなく、国籍不詳、生年月日不詳、職業不詳のまま立件された。1人が未成年の可能性があるとされたのは、話のつじつまが合わないという理由である。氏名は音を拾ったもので、綴りは不明である。どれが名字でどれが名前なのかさえわからない。以上のように、この事例は何もかもが異例づくしであるが、これを国民から選ばれた裁判員が審理することになるのである。

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